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お世話になってます


ここは十三番隊の隊舎の中の廊下である。私、朽木ルキアはいつものようにまとめた書類を隊長に渡しに行く所である。

「ル〜キアちゃん!!」
「虎徹三席殿、どうかされましたか?」

いつも明るく声をかけてくれる十三番隊第三席の虎徹清音が今まで滅多に見た事がない、血相を変えたような顔をしてこちらに全力疾走してきた。
ルキアの前で止まり、息を整えるため深呼吸をする。心配そうに覗き込むと、清音は思い切り顔を上げた。

「あ、あさって何の日か覚えてるよね?」
「あさって・・・ですか?何か特別な日でしたでしょうか・・・?」

首を傾げてみるルキアを見、本当に覚えていない事を察した清音は、溜息を一つついてルキアの書類をふんだくる。自分の行った仕事なので、自分で最後まで行う主義なルキアは必死になってその書類を奪い返そうとする。

「あさっては浮竹隊長の誕生日ですよ?準備しました?」

今まで仕事尽くしで外出をほとんどしていないルキアを知る清音だから、いつも世話になっている隊長に何か贈り物を隊員に用意するよう促していた。勿論自分は既に用意済みであったが。
今の今まで忘れていたルキアは、書類を奪い返す手を止め、清音を見つめる。やっとわかったか、と清音はその書類を返した。

「隊長に何が欲しいとか聞かないのよ?絶対いらないって言い張るだろうからさ」
「わかっております」
「それならよろしい。行って良いよん」

ルキアは清音に一礼し、その先の執務室を目指して一歩一歩進んだ。

よくよく考えてみると、浮竹隊長の誕生日があさってという事は・・・・・・明日は、もしかして・・・・・・てかもしかしなくても日番谷隊長の誕生日ではないか・・・!?
じ、じ、じ、自分とした事がっ!!自分の隊の隊長の誕生日だけではなく、ずっと前から想っていた人の誕生日さえも忘れていたとはっ!ふ、不覚だぁ!!!
ルキアは自分の無能さに自己嫌悪に陥りながら執務室の前で隊長の名を呼ぶ。

「う、浮竹隊長!書類持って参りました!隊長印をお頼みします!!」

いつもなら普通に声をかけるのだが、不覚続きでそのノリのまま話してしまうと声が強張る癖がある。そして毎度毎度周りの人に笑われる羽目になっていた。そして、今回も・・・・・・

「どうしたんだ、朽木。声が強張ってるぞ。いいから入れ」

今日は調子が良いみたいで、扉を開けるとそこでは清音と同じく、第三席である小椿仙太郎と何やら今後の仕事について話し合っていた所であった。
そして机の上には山積みの書類が置いてある。

「申し訳ございません、お話中に」
「構わないよ。ここに重ねておいてくれ」

一番山の低い書類の山を指差し、浮竹はルキアに微笑んだ。



言われるがまま、浮竹の指示通り書類を重ねて一礼して執務室から出た。そして自分の持ち場へ戻ると、そこには清音が先回りしていた。

「お帰り〜〜」
「な、何か御用でしょうか・・・?」
「今日はもう上がっていいよ」
「・・・・・・え?」

清音は早くルキアに浮竹隊長の誕生日プレゼントを準備させたかったらしい。今のルキアの心情も知らず、清音はルキアの背を押す。ルキアの仕事の分は代わりにやっておくから、と付け足して。
言い返すことが出来なかったルキアは、何度もお礼を言って、自分の家へと帰って行った。





ここは朽木家、ルキアのプライベートルーム・・・違った、自室である。そこでルキアは棚の中やら机の中やら色々ほじくり回し、贈り物として適しているものを探し回っていた。
しかしなかなか良い物がこう・・・都合よく出てきてはくれず、溜息ばかりが零れている。

「なかなかないものだな・・・・・・」

病的な浮竹には、やはり健康に良いものなどが良い気がするのだが、そんなものは持っていない事はわかっている。他に、何なら喜ばれるだろうか。
そんな時思いついたのが、甘味処。和菓子が美味しいと評判の店がこの近くにあった事を思い出す。浮竹は和菓子が好きそうな・・・そんなイメージがしたので、彼の贈り物は決まりだ。

「肝心なのは日番谷隊長だ・・・・・・」

滅多に話した事のない日番谷隊長・・・。ずっと想っているだけで、書類を私に行ったときくらいしか話した記憶がない。なので何が好きなのかとか全然思いつかない。誰かに相談するのがいいのだろうが、無駄な気がする。みんな決まって、小声で同じ答えを口にするに決まってる。
仕方がないので、尸魂界内を歩き回り、何か隊長の情報を得よう、そう思ってルキアは家を飛び出した。




「ねぇねぇ・・・日番谷隊長の誕生日、何あげるか決めた?」
「えへへ〜、私はねぇ、赤紫色のマフラー編んだんだ〜〜www」
「あ、似合うかもね。でも私の方が凄いよぉw実はぁ・・・・・・」


日番谷ファンの女死神二人が明日の誕生日の贈り物について語り合っている。最後は小声で言っていたのでルキアからは全く聞こえなかったが、確かに日番谷には赤紫色も似合う気がする。

昼時なので、至る所の公園のような所では食事をする隊員やカップルなどがたくさんいた。
自分も日番谷隊長と出来たらなぁ、そんな事を考えながら前を向いた時、十番隊の松本乱菊副隊長がこちらへ歩いてくるのが見え、隠れようとしたがすぐ腕を掴まれた。瞬歩ですぐ追いつかれたのだろう。

「ルキアちゃん、何処行くのかなぁ?私から逃げようなんて考えないでよ」
「ままま、松本副隊長!!!?」

今日はよく声が張りあがる日だな、声が出てから気づいたのでかなり遅いけど。
乱菊はルキアの顔をジィと見つめ、そして心の内を読み取ったかのように言う。

「さては隊長の誕生日プレゼントの事考えてるなぁ?」
「はぅあっっ!」
「命中だね?w」

乱菊はニッコリ微笑んで・・・というより、不敵な笑みを浮かべてルキアの腕を引いた。何処へ連れて行くつもりなのか何となく検討はついていたので、一生懸命乱菊に抵抗をする。ほぼ無駄だとはわかっているけど。
相手は私よりも年上だし、私より数倍・・・否数十倍も美人だし、日番谷の良き理解者である事も百も承知。だが、ルキア一人の力では到底敵わないのが、何か企みのあるときの乱菊である。

「そういうことなら本人に直接聞いた方がいいって。それに、最近十番隊に雛森が来ないから隊長の機嫌が悪くてねぇ。ちょっと話し相手になってあげてよ」


雛森とは。五番隊の副隊長を務め、日番谷の幼馴染みである雛森桃の事である。そして彼女にも、敵わないとはわかっている。
なぜなら、私より数倍可愛い。そして優しくて何より笑顔が素敵だ。いくら幼馴染み同士でも、日番谷がそれを「かわいい」と思わないわけがない。ルキアには出来ない芸なので、前から桃の事は憧れていた。


「いえ、何も話す事などっ・・・!」
「適当に話してればいいわよー。私だっているし」

物事を言うのは容易いが、しかしルキアは人と話す事に慣れていない。それに好きな人の前だと余計口が堅くなってしまう。自分には無理だ、そう思いながら抵抗を続けるが、やはり乱菊には敵わなかった。



「隊長!子猫拾って来ましたっ!」
「あぁん?」
「ね、猫ではないっ!!」

突然の乱菊の発言に戸惑い、ルキアは一生懸命弁明する。

「も、申し訳御座いません、私は十三番隊の朽木ルキアです・・・・・・。散歩の途中で松本副隊長とでくわ・・・いえ、お会いして、つれてこ・・・・・・いえ、十番隊へ誘われ、ついて来てしまいました・・・」
「というわけです!疲れてるみたいで、まぁ疲れたもん同士話すのもいいんじゃないかと思って連れてきたんです」
「俺は忙しいんだっ」
「もっもうしわけございませんっっ今すぐ帰りまっ」

くるりと回り右をしたが、ルキアは後ろにいた乱菊に気づかず、そのまま彼女の胸の中に顔を埋めてしまう。
乱菊は苦笑して、ルキアの肩を掴んで、そのままソファーに座らせた。そしてお茶を持ってくるから、と方向を変えた。しかし、すぐお茶を入れには行かず、乱菊は日番谷の横に歩み寄る。

「少しは息抜きしましょ?」

日番谷の持っている筆を取り、そして日番谷の腕を引いた。しかし相手は隊長。ルキアとは違い、乱菊は全く前には進めない。

「なんですか?休憩しましょうよぉ」
「茶なら俺が入れる」

そう言って日番谷は台所へと向かった。

そして数分後。日番谷は3つの湯のみと大福をお盆に乗せて戻って来た。

「ありがとうございます」
「お前は本当堅っ苦しいな」
「申し訳御座いません・・・・・・」
「そこがルキアの良い所なんだから文句言わないの、隊長」

早速大福を頬張る乱菊。そしてルキアにも一個大福を渡す。

「美味しいわよ、京樂隊長貰った大福」

話を聞くと、つい先日十番隊に、八番隊の京樂隊長と伊勢副隊長がやってきて、大福を分けてくれたらしい。松本の好物なので何度も礼を言って貰ったそうである。
日番谷は、甘い物があまり好きでないと以前聞いたルキアは日番谷の顔色を窺う。ただボーっとお茶をすするだけなので、その噂は本当のようである。

「あの・・・日番谷隊長にお尋ねしたい事があるのですが・・・」
「なんだ?」
「何か欲しい物とかありますか?」

あの日番谷と話せるだけでもう幸せなのだが、でもこれを聞きに来たようなものなので、恐る恐る尋ねてみた。

「俺の誕生日か?何も欲しいもんなんかねぇよ」

流石。最年少で隊長に就いただけの事はある。勘が凄い鋭い・・・・・・。って褒めてる場合ではない。それじゃあ意味がないじゃないか!
単刀直入に聞きすぎた自分も悪いのだが、と少し顔を下に向けて溜息をついた。

「隊長・・・冷たいですよ?」
「俺は冬が好きだからな。俺へのプレゼントはそれだけで充分なんだ」

確かに隊長の技は氷だ。それに冬生まれ。冬が好きでも全然おかしくはない。それに、自分も冬の方が好きである。

「そういえばこないだ私、隊長の湯のみ割っちゃいましたよね?この湯のみはなんなんですか?」

日番谷の前に置いてある湯のみを指差して乱菊は尋ねた。


つい先日、書類整理の息抜き、と台所の片付けをしていた乱菊は、手が滑って湯のみを落としてしまったらしい。しかもそれは、日番谷が愛用していた湯のみで、かなり怒鳴られたと言う。


「あぁ、これか。客用が多かったからな、一つ使った」
「なるほどねぇ」

すると乱菊はチラリとルキアに視線を送る。その視線が意味する事がわかった私は、しばらく日番谷と乱菊の三人でお喋りをして、すぐに十番隊を去った。そう、買い物をするために。








翌日、12月20日、朝10時。

「こんにちわー」
「あら、ルキア。買ってきたのね?いいわよ、上がって」

執務室までまた腕を引っ張られるが、今度は抵抗しない。今回は覚悟が決まっているから。

「隊長、ルキアが会いに来ましたーーー」
「朽木が?」

失礼します、とルキアは一礼して執務室に足を踏み入れる。昨日は無理矢理入れられたこの執務室だが、今度は自分の意思で入れた。

「あの・・・お誕生日おめでとうございます、日番谷隊長・・・。それでお渡ししたいものがありまして・・・・・・」
「何もいらないって言っただろ?」

はぁ、と溜息をつきつつも、こちらに視線を移してくれたあたり、少しは気があるようだ。隊長も誕生日の日に仕事で大変であろう。その大変な時間を、自分の贈り物で少し楽にさせられたら、と机の上に箱を置いた。

「開けてもいいのか?」
「あ、はい」

箱を手に取り、リボンを解き、包装紙を丁寧に取って開けるとそこには、リボンと包装紙に相反する色の地味な箱が出てきた。
何だろう、とその箱の蓋を開け、そこから出てきたのは・・・・・・

「湯のみ・・・・・・?」
「昨日お伺いした時、割れてしまったと聞いたので。この湯のみで熱いお茶を飲んで、少しでも気分が楽になれば、と思い・・・・・・」
「・・・サンキュー・・・・・・な」

照れ臭そうに言う日番谷に優しく微笑んでしまったルキアであった。


後書き
日番谷誕生日小説の投票結果一番多かった、日ルキ版ですっ!!
手作り、というコメントも多かったのですが・・・・・・いつの間にか湯飲みになっていた(涙)
き、期待していた方ごめんなさいっ!でも最終的に普通に会話できるほどしたしくして微妙な甘さをめざ・・・・・・して挫折したっぽいです管理人|||orz|||
でも私なりに努力をしたので・・・許してくださいーーー!お、お茶差し上げますので・・・(;^^) _旦~~



UPDATE:2006.12.16
ルミガンで素敵なまつげ