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一番大切なお前と…

  第二章



郁夏を探す旅を始めた冬獅郎…。しかし、2年経っても未だに見つからずにいた。

「婚約者かぁ…」
もう、一体何処を探せばいいのか行き詰っていた冬獅郎は、道端で休んでいたが、溜め息と一緒にそう呟いていた。
「何処にいるんだ、郁夏…。もしかして、俺がまだ弱いからか…?」
きっとそうだ!と思い、森の奥で修行することにした。

近くの森へ走っていった冬獅郎だったが、そこには、何体もの虚がいた。本物を目にしたのは卒業試験の時以来だ。息を呑み、冬獅郎は斬魄刀を解放した。
「おい、てめぇら!俺、浮竹冬獅郎が相手になってやる!!」
大声で虚に向かって叫んだ。すると、一斉に冬獅郎の方へ虚が向いた。冬獅郎は振るえ上がった。しかし、これが郁夏に会うための試練だ、と自分に言い聞かせ、氷輪丸を解いた。
「霜天に坐せ!氷輪丸!!!」
すると空は暗くなり、辺りは凍えつくほどの寒さになった。そして、大きな氷の龍が現れた。
「見ててくれ、郁夏…」
大きく深呼吸をし、斬魄刀を振り上げた。すると、大きな龍は目の前に蠢(うごめ)く虚に向かって飛んでいった。
「ぐおおおぉぉぉぉ!!」
奇妙な唸り声を上げ、虚は浄化されて行った。しかし、まだ1匹しか片づいていない。まだまだ目の前には多量の虚がいる。これではキリがない…と思ったが、諦めず2匹目の虚を倒すため向き直り、氷輪丸を操る。
半分ほど片づいたが、もうその頃には冬獅郎の力があまり残っていなかった。息も切れ切れである。しかも、視界が歪み始めた。
「やば…」
虚が冬獅郎目指して迫ってきている。
「こんな所で死んだら…なんのため半月、郁夏を探すため歩き回ったかわからないじゃねぇか…。……もっと…もっと強く…強くなりてぇ!!」
そう冬獅郎は叫んだつもりだったが、本当はほとんど聞き取れないほどの囁き声でしかなかった。すると、どこからか声が聞こえてきた。


 ―強くなりたいか、冬獅郎―
「まさか…氷輪丸………なのか?」
 ―ああ、強くなりたいと言ったな―
「ああ、こんな所で死ねないんだ…でも…もう俺は駄目かもしれない……」
 ―強くなりたいと強く願うなら、力を貸してやる―
「本当か!?………なら…頼む、氷輪丸!俺は、強くなりたい!」
冬獅郎は叫び、立ち上がり、虚に向き直った。


 ―さあ、構えろ、冬獅郎…来るぞ―
「おう、行くぜ………卍解
         大紅蓮氷輪丸!!!!!」

辺りは氷景色が広がった。急激に温度が下がる。また、冬獅郎の背には氷の翼が広がっている。しかし、冬獅郎には、『郁夏に会いたい』という、熱い心が宿っている。心は全然寒さは感じなかった。
卍解になっただけで、数体が消えた。後は10匹程度だが、今の冬獅郎に攻撃を放てるのは、1回が限界だろう。

 ―さあ、放て、冬獅郎―
「頼んだ、氷輪丸…」

もうこれしか成す術がない、と氷輪丸に全てを委(ゆだ)ね、残された力ほとんどを斬魄刀に注ぎ込む。
「行くぜ!!」
向かいにいる多量の虚に向かって急降下し、力全てを斬魄刀に込め、振り下ろす。全ての虚が消えたと冬獅郎は思った。しかし、まだ2体残っていた。もう冬獅郎には斬魄刀を振り回す力など残ってはいなかった。それに、背に生えた翼も先程の攻撃で霊力を使い果たし、消えてしまった。目の前が霞み、そのまま地へ落ちた…。


冬獅郎は地へ落ちていることを実感し、そのまま目をつぶった。
「ここまでか…サンキューな、氷輪丸…ここまで俺といてくれて…」
しかし、冬獅郎が落ちたのは地面ではなかった。また、森の木々でもなかった。
「…温かい…?俺、地に落ちたんじゃ…」
冬獅郎はまだ意識があるどころか、何者かに助けられたらしい…。自分を救った主を確かめようと、そっと目を開け、ゆっくり身体を起こしてみた。氷輪丸は既に斬魄刀に戻っている。斬魄刀は、冬獅郎の手の中…。冬獅郎の目はまだ霞んでいて相手をよく確かめられない。自分の下を見てみると…
「…!!」
それは炎の鳥だった。くちばしから炎を噴出し、向こう側にいる虚を浄化してしまった。後ろに霊圧を感じた冬獅郎は、後ろを振り返った。そこには、死覇装に身を包む、綺麗な女性がいた。
「もう大丈夫ですよ。私の鳳雅(ほうが)があの虚を倒しましたので。」
その先を見ると、ちょうど最後の虚を倒し終わった所だった。そして女性の言う鳳雅は、ゆっくりと地面へと向かっている。

「さあ、降りましょう、冬獅郎さん。」
自分の名前を呼ばれ、冬獅郎は驚いた。何故自分の名前を知っているのか、と…。その女性は自分に手を差し出している。
「何故私があなたの名を知っているか、ですか?ふふ…。私は、真間郁夏ですわ。覚えていらっしゃいますか?」
自分の探し求めていた女性…やっと会えた…と思い、郁夏の手を取った。郁夏の手に、冬獅郎は今までにない温もりを覚えた。
「私、懐かしい氷輪丸の霊圧を感じて来てしまいましたわ。そしたら丁度、卍解をした所で。驚きましたわ。卍解の能力まで私は知りませんでしたから。」
郁夏の微笑み…それは辺りの悪を洗い流すのには充分すぎるものであった。そして、冬獅郎もその微笑みに先程の戦いで負った傷も治ったかのように感じてしまった。

「聞いてください。」
すると突如、郁夏は真剣な顔になり、冬獅郎に話し始めた。
「突然ですが、私は十番隊の5席に就いています。そして、つい先日、現世に現れた巨大虚をどうにかしようと、私の隊の隊長と3席の方が現世に赴いたのです。そして…2人とも…その虚に呑まれてしまい…。その巨大虚は総隊長があしらったのですが…。今、十番隊の隊長の席が空いております。」
それが何を意味するのか、その頃の冬獅郎は理解する事が出来なかった。しかし、その後の郁夏の言葉を聞き、冬獅郎の時は止まった。
「冬獅郎さん、十番隊長になりませんか?」
隊長になれる1つは、卍解習得者がほとんどだと教わった。今あまり卍解習得者がいないらしく、つい先程卍解を習得した冬獅郎が、今就くのに相応しいと郁夏は察したらしかった。郁夏の目は、とても真剣だった。
「どうでしょう?嫌ですか?」
郁夏は少し悲しげな顔をした。冬獅郎はそんな顔したら断れないだろ…と呟いたが、郁夏には届いていなかった。
「いいぜ、郁夏の隊の隊長、俺が引受ける。」
冬獅郎は頬を少し赤らめ、郁夏の耳元で囁いた。冬獅郎の優しい口調に、郁夏は少し酔いそうになってしまった。一瞬、足元が浮いたようにも感じた…。しかし、郁夏は本当に宙に浮いていた。気がつくと郁夏は冬獅郎の腕の中だった。
「きゃ……!」
「きゃってなんだよ、嫌か?」
郁夏はもちろん “お姫様ダッコ”と呼ばれることをされたのは初めてだった。急に郁夏は恥ずかしくなって、顔を赤らめてしまった。冬獅郎はそれがわかったのか、そっと郁夏に囁いた。
「今日はゆっくり休め。疲れてるだろ?明日隊舎に行こう、な?とりあえず、今夜は俺んちに泊まれよ。」
「はい、では、お邪魔させていただきます。では鳳雅で…」
郁夏は斬魄刀に手をかけようとしたが、冬獅郎がそれを遮った。
「もう霊力は使うな。俺が運んでやっから。」
冬獅郎は自分の斬魄刀をしまい、郁夏の斬魄刀も持ち、郁夏を抱えて歩き始めたが、まだ足が痛んでいた。
「…つっ!」
「冬獅郎さん、大丈夫ですか!?やはり鳳雅で飛んだ方が宜しいのでは?私の霊力なら、一日ゆっくり眠れば元に戻りますので。どうか、力を使わせて下さい。これ以上、冬獅郎さんに労力を使わせるわけにはいきません。限界を超えていたのでしょう?」
郁夏は冬獅郎の今の状態を全て把握していたらしい。冬獅郎はそれを聞くと、郁夏を自分の腕から降ろし、斬魄刀を渡した。
「それじゃあ、頼んだぜ。俺の家、覚えてるか?」
「もちろんですわ!!………紅天(こうてん)に坐せ!鳳凰丸(ほうおうまる)!!」
すると、斬魄刀の先から先程の鳳雅が姿を現した。
「鳳雅、覚えていますか?冬獅郎さんの家です。頼みましたよ。」
郁夏は鳳雅の背に乗り、冬獅郎の手を取り、自分の隣りに座らせ、鳳雅に指示を出していた。しかし、冬獅郎はもう目の前がほとんど見えないくらいに弱っていた。そのまま、郁夏の肩に自分の頭を預け、眠ってしまった。



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