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飛び込み禁止
「これ十番隊にお願いね〜」
冬。年の初めからやたら仕事が多い気がする。自分の隊だけじゃあないと信じたい十三番隊のルキアだが、本当に仕事が多かった。この一週間、休んでない気がする。確かに正月三日間は休ませていたが、その分、と仕事が多いなと思ったが、連続して十三番隊には書類の山が届けられた。どこからこんな書類が流れ着くのかと思ったが、これらが来た隊は三番隊・五番隊・九番隊がほとんどを占めている。
その三隊はどこも隊長が抜けているし、五番隊に関しては副隊長までもいない。それなら正月も総動員され書類整理に追われ、正月明けに大量に他隊に流れ出るのはうなずける。
いつになったら落ち着けるのだ、と虎徹三席に手渡された十番隊宛てとなっている書類に目を落とす。
―日番谷隊長、先日私たちと現世から戻られたばかりだったな―
破面問題で現世派遣されていたルキア含む死神たちは、先日ここ尸魂界に戻って来た。すっかり疲れきった顔で、同行していた恋次が十三番隊に挨拶に来たついでにいらない書類まで持ってきた。聞いた所、破面についてつかんだ情報を知らせる書類らしい。ここ十三番隊が最後らしく、浮竹隊長の隊長印が押された書類は、今ルキアに手渡された所、というわけだ。
―会うのは戻ってきてからは初めてだな―
照れるような事ではないはずなのだが、ルキアとしては、片思いの相手と話す機会はあればあるだけ欲しい。こんな機会なんて滅多に訪れないはずなのに、現世派遣の時はあまり話せずに終わってしまったのだから、切なさを募らせながらこの正月を過ごしてきた。
しかしついに、話せる機会が訪れた。松本副隊長に相談すれば、なんとかしてくれるかもしれない。早く行かないと変に思われるし、上着だけ取りに行って出かけよう。
かじかむ自分の手をさすり、十番隊舎の前に立っている。仕事続きなので倒れそうだが、とりあえず動ける。寒いが、肩をすぼめて十番隊内に踏み込んだ。
十番隊の玄関となるドアを叩き、誰かが出て着てくるのを待っていた。バタバタ走る音がする。気づいたようだ。
「松本ぉぉぉぉぉ!!」
怒鳴りながら出てきたのは紛れもなく十番隊隊長、日番谷だ。眉間の皺がかなり酷い。お怒りの時に来てしまったようだ。
「なんだ、朽木ルキアか。何のようだ」
「あ、破面の確認の書類を預かってきました」
「あぁ、悪いな・・・そこが最後だったのか?」
「はい」
「そうか。ご苦労さん」
戻ろうとする心を寄せる相手をただぼーっと見ていた。
―どうした?―
そんな台詞が聞こえた気がしたが、頭の上を通り過ぎただけではっきりしない。その次の瞬間、目に映っていた日番谷が見えなくなった。
「朽木ぃぃぃぃ!!!」
「・・・・・・・・・」
「気づいたか?」
目を開けると、ルキアは毛布をかけられ、ベッドの上に寝かされていた。一体、何があったのだろうか、そう思いながら日番谷を見つめると、何を聞きたいのか察したのか、日番谷はゆっくり答えてくれた。
「あの後さ、お前が突然俺の腕の中に埋まってきてさ。何かと思ったらすっげぇ冷や汗だったぜ?貧血じゃねぇか?」
さらり、と答える当たり、全然気にしていないようなので安心した。しかし、ここまでどうやって運んでくれたというのだ?まさか・・・な。
「にしても、朽木、お前ちゃんと飯くってんのか?」
「え・・・?」
「いや、あまりにも軽かったからさ」
えーーーーーーーー!!!?まさか、ここまで本当に運んできてくれたのですか、という言葉が驚きのあまり声として出なかった。
「驚きすぎだぞ?」
「ど、どうやって運んで・・・下さったのですか?隊長・・・・・・」
まだ落ち着いた心を押さえ込み、ルキアは一番気になる事を訊いた。
別に、普通に、と答えるが、普通の運び方とは何なのだ?人を運ぶには色々あるそう曖昧に答えられては本当の抱え方がわからない。もし、あの時恋次に抱えてもらった風にしてくれていたのだとしたら、なんという恥さらしだろう。絶対に嫌われる、とルキアは肩を落とした。
「茶ぁでも飲むか?」
「あ、はい・・・」
とりあえず日番谷と少しでも離れないと今は心臓が破裂しそうだ。日番谷がお茶を入れに行っている間、一生懸命深呼吸をして爆発数秒前だった心臓を落ち着かせた。
―日番谷隊長は私をからかっているのだろうか―
氷雪系どうしとして仲良くでもなりたい気持ちがあるのだが、どうしても「好き」という感情の前では、仲良く会話を弾ませる事が出来ないらしい。
片思いなら片思いらしく、遠くから見ているだけにしていればよかった、と今頃後悔しても書類を渡しに行けと言われては逆らう事が出来ないから仕方ない。
―そういえば、松本副隊長はどうしたのだろう?日番谷隊長、凄い喧騒だったなぁ―
「どした?考え事か?」
「ひゃあ!」
「だーから、驚きすぎだって」
「ででででも考え事してる時に話しかけられたら驚くじゃないですかっ」
悪い悪い、と差し出された湯気が立ち上る湯のみを受け取り、手を温めた。
その間、やけに視線を感じるので顔を上げたら、やはり日番谷隊長に見つめられていた。
「ななな何用ですかっ!!?」
「面白いな、お前」
クスクス笑っている。やはり、からかわれている・・・・・・。そう思ったらちょっと悲しくなったが、片思いなのだから仕方ない、と気持ちを落ち着かせる気持ちでお茶をすすった。
その間も視線を感じたが、今度は気にせず飲めるくらいの優しいものだった。だから別に気にもならなかったのでそのままお茶を飲んでいたのだが、突如日番谷は立ち上がった。どうしたのだろう?
「誰だ」
執務室のドアに一歩、一歩、とゆっくり近づいていく。誰かいるようだ。霊圧を抑えているのか、もともと小さいのか、ドアの外に気配を感じた。
彼は書類を他隊に渡しに行ったきり3時間帰って来なかったらしい。そこに尋ねてきたタイミングの悪かったルキアだったが、でも新しく白いページを埋める事が出来て嬉しかった。
「大丈夫か!!?」
「隊長・・・・・・最近忙しくて・・・その・・・・・・えと、好き・・・です」
「え?」
突然すぎたあの台詞。本人は覚えていないらしい。面白いからあのまま黙ってる事にした。そしていつか機会があれば俺もアイツに言ってやろう、と。
それはかなりいけない事だってわかってた。自分だけ幸せにひたって、相手が可哀そうな気もするが、それでも日番谷は自分と彼女の立場をよく考慮し、言わないでいる事を選んだのだから、許して欲しい。
だからせめて、執務室までは運んで行ってやる。そう、あの時阿散井恋次が彼女を抱えて双極から彼女を連れて逃げていた時のように・・・・・・・・・。
突然自分の胸に飛び込んだ彼女を、俺は責めはしない。仕事続きで大変だったのはわかったからさ。貧血になったって可笑しくないし。不意打ちな彼女の行動、言動だったが、踏み込んでしまったのだから仕方ない。また一歩、お互いの距離が近づいていた。それは、日番谷にしか分からない事であった。
飛び込みは、危ない事だらけだよ?気をつけないといけないぜ、こんな腹黒い俺みないな輩が今のご時世多いからさ、朽木。
いや、これからは・・・ルキア・・・・・・だな。
後書き
いつぞやの「日番谷CPリクエスト」の拍手でのアンケートの際の結果にあったものです。リクエストしてくれた方、お待たせいたしました。(本当だ)
えっと、遠まわしに姫ダッコでした。確か双極問題の所で恋次はルキアを姫ダッコしてたよね・・・?
まぁそんな感じで書くの微妙だけど楽しかったです。
UPDATE:2006.01.20