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St.Valentine’s Day
女子・男子共に盛り上がる行事は年間を通して四つ。
一つ目は、夏。暑いが、色んな遊びが出来てとても盛り上がる。二つ目は、クリスマス。あれは不思議なくらいカップルがいちゃいちゃする行事だ。本当は宗教行事なのが、今はあんな一大イベントにまで発展していて、昔の人たちは泣いている事だろう。そして残りの二つが、バレンタインデーとホワイトデー。他にも盛り上がる行事はあるが、男女間で盛り上がるのはこんな所だろう。
そして、今日はバレンタインデー。至る所で顔を林檎のように真っ赤に染め上げた男女が見られる。ここ、尸魂界でも、一護たちがやって来てから二度目のバレンタインを迎えた所だ。
去年のバレンタイン騒動で、実は男子の間では一体いくつ貰えるか競う事になっていた。
「今年はこの美しい僕が一番だね」
自分がこの世で一番だと思い込んでいる、十一番隊の綾瀬川弓親は、この日の始まりをこの台詞で始めた。それを聞いた同じ隊の斑目一角は、即座に無理だと思った。何故なら、ナルシストだから・・・・・・。誰もがそれは思っていた。
また別の場所では。
「今年は負けませんよ!」
「うるせぇぞ?お前俺の隊に何しに来た。それに負けないって何にだ」
ここは十番隊。眉間に皺を寄せたここの隊長、日番谷冬獅郎は、突然やってきて変な台詞を吐いている六番隊の阿散井恋次をもの凄い形相で睨みつけていた。
彼はこういう行事が好きではなかった。あちこちでキャーキャー叫んでいる声を聞いていると苛々する。好きな奴にチョコ渡して何が楽しいんだ、そうとしか思ってもいなかった。
しかし。
「忘れたとは言わせませんよ、前回優勝者」
そうだ。冬獅郎は第一回目のバレンタイン騒動で一番多くのチョコレートを貰ってしまったのだ。一番毛嫌いしていた冬獅郎だが、隊舎前に置かれた名無しのチョコレートは返す宛が分からないので隊内に入れていた。
それを用が済んだ副隊長の松本乱菊が見たら、息を呑んでしまった。それは当たり前の事であるが。
見事一番を飾った史上最年少にして史上最多の贈り物を貰ってしまった隊長は、総隊長の山本元柳斎重國は、冬獅郎に二週間の休養を許した。それは一度にとっても分けてとっても構わないし、いつとっても構わないというものだった。それはもちろん疲れが酷い時に使わせていただき、年が明けた。
今年もだったら、と全男性死神は色んな女性死神にチョコレートを申し込んだ。義理チョコでも、なんでもいいから、貰えたらいいのだ。数を貰おうとみんな必死だった。これには隊長格以外の平隊員も必死である。
「馬鹿、好きであんなに貰ったんじゃねぇし。それに安心しろ、今年は貰っても貰わない」
もうあんなにたくさんのチョコレートを貰うのは御免だ。甘い物が嫌いな冬獅郎にとって、チョコレートの山はゴミの山と同じである。じゃあ去年の山のチョコレートはどうしたのか?それは、
「まぁ隊長が貰ったチョコレートはまた俺らが貰いますけどね」
十番隊への来客者へと配ったのだ。隊長格は多めに貰えたので書類を渡しに来る連中は席を持った者が多かった。おかげでたくさんあったチョコレートもすぐになくなってくれたので安心した。
また、あんな目には遭いたくない、と思っている冬獅郎は、今年は断固拒否する事にした。そして、今年は別の男性死神を一番にしてやろうと考えていた。
「優しいんスね、隊長」
「だろ?」
珍しい冬獅郎の笑顔。見てしまった恋次は暫く停止してしまう。不思議に思った冬獅郎は恋次を覗き込む。と、その時・・・・・・。
「日番谷隊長、やばいですよ!遂に戦争が始まりました!門の外に、有り得ない数の女性死神が・・・!」
駆けつけてきたのは七席の竹添幸吉郎であった。外を見ると、いつの間にか凄い量の人が群がっている。よく目を凝らして見れば、全員女性である。
「やばいんじゃないッスか?あれじゃあ門が壊れますよ?」
「いらねぇのに・・・・・・仕方ねぇか・・・いっちょ始末してくる」
「ま、待ってください、始末って・・・!」
「ちょっと頭冷してやるだけだって、安心しろ。あとお前も自分の隊に戻ったらどうだ。貰える物も貰えねぇぞ?」
確かにその通りだ、と竹添に案内してもらい、裏口から恋次は六番隊へと戻って行った。
「日番谷隊長!私から貰ってください・・・!」
「義理な気持ちでもいいですから!」
「ずっと好きでしたっ」
ここは十番隊隊舎の正門とも言える場所。一生懸命十番隊の隊員たちが門を抑えているがそろそろ限界だ。早くなんとかしたいが、ここを離れればすぐに門が開いてしまう恐怖で、なかなか隊長本人を呼びにも行けない。この状況を知って来る事を祈るばかりである。
しばらくして、隊舎の玄関が開く音がし、隊員の何人かは後ろを振り返った。
「悪いな、足止めしててもらって。あとで世話チョコってやつやるから安心しろ。最後に手元にあるチョコが多い奴の勝ちなんだろ?」
隊員の何人かにボソボソと呟いた。もちろん、門の外は更に盛り上がっていて彼女たちに冬獅郎の囁きなど聞こえたはずもない。
そして彼の言葉の意味する事は、その場の隊員たちみんな喜ばす事。彼の企みによって隊員の願いが叶うわけではないが、この状況を乗り切るには充分すぎる事であった。
「おい、てめぇら!そんなに俺にチョコあげたいならそこ置いてけ!」
「駄目です!また処分する気でしょ!!」
「わかってるんですからね!!」
相手が甘い物嫌いな事を知らないらしい。好きな人を困らせて何が楽しいんだ、と眉間の皺を更に増やして、斬魄刀を抜こうとする。
それをいち早く止めた隊員は、十番隊の第四席。彼ももてる方で、去年も十番隊の中でバレンタインイベントで二位を獲得した。女性にも優しい所が人気の証拠らしい。隊内の女性のほとんどが冬獅郎と第四席にチョコをあげたらしい。
「大丈夫だ、門の向こう側へ行くだけだ」
第四席の静止を振り切り、氷輪丸にまたがり門の向こう側へと向かった。
「隊長!」
「貰ってやるから、門壊すなよ」
「あ、あ、ありがとうございます!!」
みんな冬獅郎にチョコレートを手渡して嬉しそうに退散していった。
最後の死神がチョコレートを置き、チョコレートの大きな山が一つ。しかし、そこに冬獅郎の姿がなかった。いや、いるのだが、山の下敷きなってしまい見えなくなってしまったのである。それだけ多くのチョコレートが十番隊前に置かれていったのだ。
「大丈夫ですか!?」
静かになった外の様子を見るために隊員たちが門を開けて出てきたが、隊長の姿がなくて慌て始めた。もちろん居場所はあそこ・・・・・・。
「俺はここだ・・・!」
チョコレートの山から冬獅郎は姿を現す。隊員たちは安心して、冬獅郎にしがみついた。
彼らはあの嵐を鎮める方法が全くなくてずっと悩んでいたのだから・・・。
「おら、このチョコの山、持って行きたいだけ持って行け」
「あ、ありがとうございます!!」
その場にいた隊員たちで山分け、という事になり、みんな喜んで取っていた。本当は盗むのと同じ事なのだが、今日だけは特別だし、本人が許したのだから盗んでいるわけでもない。
冬獅郎に送った女たちには悪いが、どっち道冬獅郎には甘すぎるチョコレートなど食べる事が出来ない。いずれ誰かに食べてもらうのだから、いつ渡しても同じ事である。どうせなら、食べない自分が優勝するのなら、心からチョコレートが欲しくて、優勝をこの手にしたいと思っている隊員たちに分けてあげたい、というのが冬獅郎の心からの願いだった。
それに、知らない女から貰ったって嬉しくない。さっき来たあの中に、知っている死神などいなかった。尊敬しているくらいならいいが、ああいう形で表されたら好意も何も生まれるわけないのに、と冬獅郎は執務室に帰りながら思っていた。
「隊長、おつかれ様です」
「おまっ何処行ってたんだ!」
「何処って、今日はバレンタインでしょ?チョコレート渡しに行ってたんですよ。隊長もいりますか?」
「いらん」
「そんな事おっしゃらずに〜。ちゃんと甘さ控えめにしてありますから」
そう言って綺麗にラッピングされたチョコレートを目の前に差し出した副隊長の松本乱菊。彼女は渡す際、先程の騒動は一部始終見させてもらった事も話した。
「隊員たちにチョコレート分けたんでしょ?私のくらい貰ったって優勝は隊長のものにはなりませんから、安心してください」
そう言われて、しかも本命なわけじゃなくていつもありがとうな意味のチョコレートだ、と言われれば貰ってもいいか、と思ってしまう。
少し頭を下げて礼をいい、チョコレートを受け取って自分の席に着いた。
「ひっつがやく〜〜ん!!」
失礼します、もなしに十番隊執務室に入ってきた黒髪の少女。腕に『五』のついた板をつけている。彼女は五番隊の副隊長、雛森桃。日番谷の幼馴染みである。
「何の様だ」
「何よ、チョコレート持ってきたのに〜。乱菊さんと甘さ控えめのチョコを作ったんだから。そうですよね、乱菊さん♪」
「そうよ〜〜」
だから?と冬獅郎は睨みをきかすが、桃には全くダメージなし。睨んでいるその顔にベチョ、と綺麗にラッピングされたチョコレートを押し付けた。
「はい、甘さ控えめのチョコ。貰ったチョコ全て隊員たちに分けるんでしょ?渡すなら渡しちゃってもいいけど?」
そう言われると隊員たちに渡しにいけなくなるのが心情。彼女は幼馴染みだし、友チョコ感覚で貰っておくか、そう言って桃のチョコレートは受け取った。それに安心したように桃はそそくさと自分の隊へと帰って行った。
一日が経過し、地獄蝶が各隊に転送された。そして、隊舎では町会の形に整列して、発表を待った。各隊の順位を、事前に総隊長へ報告する事になっていて、夜中のうちにみんなで数えあっていた。
「発表する」
地獄蝶から、総隊長の声が聞こえ、隊員みんな静かになった。
「今回第五位は、藍染惣右助。四位は、抜かして三位は檜佐木修兵と、日番谷冬獅郎の二人。そして二位は・・・・・・朽木白哉!そして今回二週間の休養を貰える男性死神は・・・・・・六番隊副隊長、阿散井恋次じゃ」
これにはどの隊も驚いていた。今年も冬獅郎だと思っていた人が多かったからだ。しかし今年は何故か彼は三位・・・・・・。恋次ファンが増えたのだろうか、そう思う人も少なくはなかった。
しかし、冬獅郎は嬉しかった。優勝したかったと言っていた恋次のために、チョコレートを弾き返したおかげなのだろう。
隊舎の中では、四席も冬獅郎に負けないくらいのチョコレートを貰っていた。しかし、乱菊と桃の分冬獅郎が勝ってしまった。なので、今回は惣右助が一個分四席に勝ってしまったのであった。
しかし自分が六位だと分かっただけで、彼は嬉しかった。これも全て、優しい隊長を持てたおかげだ、と頭を下げた。
その発表の後、十番隊に恋次が、二週間の休養は大切に使うようにする、と言いにやってきた。別にそんな決意なんかわざわざ言いにやって来なくてもいいのに、と冬獅郎は苦笑いをしてあしらった。
帰っていく恋次の後姿を見送りながら、本当に嬉しそうで冬獅郎も嬉しくなった。彼には、本当に幸せになって欲しかったので、嬉しい限りで冬獅郎にとってこのイベント一番の幸せとなった。
後書き
なんか無駄に長くなったバレンタイン小説です(笑)しかも女性とのからみなしで何故か最終的に恋日小説に変わってるんですけどorz
最近私の中で恋日やら修日やらに萌えてるせいか・・・?同じ三位だし(笑)
ルキアともからませようかと思ったけど余裕なし;;申し訳ありませんっ
UPDATE:2006.02.10