小説メニューへ
寒空の下で
とある秋の涼しい夕方の事である。十番隊の執務室では一向に減る余地の見せない書類と睨み合いを続けていた。
そんな中、隊長である冬獅郎は副隊長の乱菊に夜風に当たると言い残して仕事を放って外へ出て行った。
その途中、冬獅郎は今日は残業になりそうだと事前に兄である白哉に伝えてしまったため、家にも帰れず、仕事は三席の二人が取り上げてしまってどうしようかと途方に暮れていた十三番隊のルキアに会った。
「時間はあるか?」
色々な会話の最中、冬獅郎はルキアに尋ねた。すると、彼女はありすぎて悩んでいた、と答え、交渉は成り立ち、冬獅郎はルキアに手招きした。
「じゃあ屋根の上ででも話そうぜ!」
冬獅郎の突然の誘いに驚きながら、ルキアはそのあとをついて行った。
十番隊舎の屋根の上、涼しい夜風に当たって二人は話していた。今は秋だが、今夜は何だか格別に寒い。
「涼しいですね」
「俺にとっては一番過ごしやすいな、このくらいが」
「私もです、日番谷隊長」
氷雪系同士、同じ意見が先ほどから多発している。今まで苦手な夏の暑さが続いていて、ようやくありつけた涼しさを忘れない様、二人は目を瞑って夜風を感じていた。
「癒されますね」
「本当だなぁ」
ルキアは今まで見た事がないくらい優しい冬獅郎の表情を見た気がした。とても安心した、何と言うのだろう、落ち着いた感じの表情をしていた。彼のあんな顔を見たのは初めてで少し緊張してしまった。
夕焼けのせいだろうか、ルキアは自分の頬が熱くなっている気がした。
「どうかしたか?」
急に無言になったため、心配した冬獅郎は、いつの間にかルキアの顔を覗き込んでいた。驚きのあまり、妙な声をあげてしまった。
「うひゃあ!」
「んだよ…軽く傷つくぜ」
「申し訳ありません、日番谷隊長………」
自分の失態を深々と謝るが、冬獅郎は先程あんな風に言っていたが、あまり気にはしていなかったようで、笑ってすましてくれた。
「この時間が、永遠に続いてくれたら良いのになぁ」
冬獅郎は秋の夜空を眺めながら呟いた。いつの間にか暗くなっている。
「本当ですね」
こんな心地よい気持ちになったのが生まれて初めてのような気がしたルキアは心底そう思った。
「また、こちらに来ても宜しいですか?」
「あぁ、歓迎するぜ。俺も松本も」
その言葉がとても新鮮で、とても嬉しかった。また、彼に会いたい…ただ相手は隊長。自分は貴族…。叶わないとわかってはいたのだが、この早くなる鼓動は止める事など不可能だった。
「あの、本当に申し訳ありません、仕事も残っていらっしゃるのに、足を止めてしまって…」
気にしてなんかない、口癖の様に言ってくれる。無理をしているのでは、と思うが、どうも言葉が出ない。月が雲によって隠れた。
「ありがとう…ございます、日番谷……隊長」
「そんな顔すんなって。せっかくの時間が台無しだぜ?もっと嬉しそうにしろよ」
確かに、隊長の言う通りだ、そう思ってルキアはしっかりしろ、と言わんばかりにペチペチ頬をたたく。
「もう少し、いてもいいですか?」
「当たり前だ」
その微笑みは、滅多に見る事の出来ない落ち着いた顔。きっと冬獅郎も夜風に当たれて幸せだったのであろう。そして空を仰いだ。月はいつの間にか雲から出てきていた。
「今日はお前といられて良かったぜ」
まさか、あの日番谷隊長からその様な言葉が聞けるとは。ルキアは目を丸くして彼を見据えた。そしてそっぽを向く。
―きっと今、私は赤面している―
ちらりと彼の顔を見ると、微笑んでこちらを見ていた。
―幸せです、日番谷隊長―
もしかしたらこれが最初で最後かもしれない、と思ったが、そんな事は絶対に嫌だ、と思ってルキアは綺麗に光り輝いている月を見た。
「今日は月が綺麗だな」
冬獅郎はルキアが月を見据えているのを見て呟いていた。いつにも増して、今日の月は綺麗な気がした。
後書き
えー、2000hitを踏んでくださった「与太郎」様のみ、お持ち帰り可能です!!
報告、本当に有難う御座いました、与太郎様!リクエストの通り、寒空の下の仲良しな日番谷とルキアにチャレンジしてみました!
すみません、私の修行不足でこんな小説になってしまった・・・。申し訳ありませんm(_ _)m
こんなんで宜しければお持ち帰り下さい♪
UPDATE:2006.09.17