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せぶんてぃーん
「なぁ、明日お前の行きたい所連れてってやるよ。どこ行きたい?」
リゼンブールに帰って来たエド。不意にそうウィンリィに訊いてみた。何故、明日なのか。それは、明日がウィンリィの17歳の誕生日だからである。
ウィンリィはアクセサリー店やケーキ屋さん、セントラルシティーの有名な料理店、ラッシュバレー、遊園地などを答えた。
エドはセントラル南南西に大きな遊園地がある事を思い出して、ウィンリィに提案した。
今もだが、エドの弟、アルはセントラルにてアームストロング少佐の手伝いをしている。だから、明日はウィンリィと二人・・・。
「嘘ッ!?本当にいいの?アルがいないって事は、もしかして・・・・・・」
「デートって事だな」
ウィンリィは嬉しくて、少し顔を赤らめてお礼を言っていた。
翌日、ロックベル家前でエドはウィンリィを待っていた。もちろん、いつもの黒シャツ、赤コートではなく、完全な私服。温かくなってきているので、薄着だ。
「お待たせ、エド!」
暫くしてウィンリィが玄関を開けて出てきた。
ウィンリィはいつもと少し雰囲気の違う服装であった。とても可愛い洋服だったので、エドは少し顔を赤くして「可愛いじゃねぇか」と呟いた。
「本当?ありがとw」
ウィンリィはエドの囁きが聞こえたのか、エドの腕に自分の腕を絡めて、駅へと足を進めた。
列車で移動する事1時間程度。長い時間だが、ウィンリィと話しているだけですぐ時が経ち、遊園地に近い駅に辿り着いた。
「着いたね、エド!」
「あぁ。ほら、遊園地はあれだよ」
エドは大きな観覧車の見える方角を指差した。チケット売り場もそこだ。
「チケット売り場、結構込んでるね」
「そうだな・・・。買っておいて正解だったぜ」
「えっ!?いつ買いに行ったの!?」
「リゼンブールに帰る前」
「もし私が行きたくないって言ったら・・・」
エドはウィンリィが以前に遊園地に行きたいと言っていたのを覚えていたので、とりあえずチケットを二枚買っておいていたのだ。
金銭上の問題のない国家錬金術師なので、もしもなんて考えはしていなかった。
それでも、自分の為に買ってくれたと知ったウィンリィは更に嬉しくなった。
「今日はアンタと来れて良かったわ」
遊園地のゲートをくぐって、ウィンリィはエドにそう囁いた。
「何乗りたい?ウィンリィ」
「そうねぇ・・・どうせだから、あれ!」
ウィンリィの指さす乗り物を見てエドは少し引いた。それは、最近出来た大型ジェットコースター。
それは見ているだけでゾッとしそうなほど高速で走っていた。
エドは頭から血が引くのを感じた。いつも過激なバトルを繰り返しているというのに、何故かこういうものには苦手意識があった。
そんなエドをお構いなしにウィンリィはエドの腕を引いてジェットコースターの行列に並んだ。
「待ち時間30分。案外早いわね」
「そうか?」
「そうよ。普通こういうのって1時間とか並ぶのよ」
エドは次第に近づく乗り物に息を飲み込んだ。
「何?エド、怖いの?男の癖に怖がりね」
「こ、怖いわけねぇだろ!このエドワード・エルリック様が!!」
ついつい名前をのべてしまう。ここはセントラル南南西。この辺では鋼の錬金術師、エドワード・エルリックの名を知らない人はほとんどいない。
「何!?エドワード・エルリックだと!?」
「何処だ!!?」
「お、俺・・・です」
みんなの視線が自分の身長より上なのに苛立ちながらそう呟く。それを聞いた回りの人達は、ウィンリィの指差す少年を見た。
「あれ、鎧だと聞いたんだが・・・」
「鎧は俺の弟だ。ただの錬金術師」
そうなのか、と言ってみんな静まり返る。
「なんかムカつくなぁ」
「いいじゃない、有名人」
やはり噂はいつも逆。いつも鋼の錬金術師がアルだと間違われる。これはどうにかならないものなのだろうか。
マヌケな所をウィンリィに見られ、少なからずショックを受けるエドであった。
そうこうしている間にも次が自分達の番である。
「お二人様は2番でお待ち下さい」
「はーい☆」
「元気だな」
「だって、ずっとこれ乗りたかったんだもん♪」
ウィンリィはずっと前からこの時を待っていたかのように言った。確かに、以前に行きたいと聞いたのはいつだったろうか。
出張整備に来てもらった時だったような気がする。二人で話していてそんな話題に上った気がした。
すると自分が乗る乗り物がやって来た。
そこに座り、シートベルトと呼ばれる皮製のベルトをはめた。
「始まるわね」
この乗り物に全員が乗ったところでスタート。遂に頂点に向かって動き出した。
確か、ジェットコースターは一番上についたら思い切り落ちるんだよな、そう心の中で思い、更に怖さが増す。
「大丈夫よ、エド」
そう言ってウィンリィは俺の手の上に手を重ねた。ウィンリィの表情は、エドを安心させるかのような微笑み。
「ウィンリィ!落ちるぞ、前見ろ!」
「え?」
すると、ガクン、と角度が変わった。それと同時に、叫び声。エドではない、これは女の子のもの。
「キャアァァァアァァァァァァァァァ!!!!」
エドはその感覚に慣れたのか、すぐに喜びの声を上げる。
「た〜のし〜〜〜ぃ(ってかウィンリィ・・・結構カワイイトコロモアルンダナ)」
自分の腕にしがみついて離れないウィンリィを見て、そう思いながらエドはジェットコースターの快感を楽しんでいた。
約一分後。エドはとても満足した顔でジェットコースターから降りた。一方、ウィンリィは少しふらついて降りてきたので、エドは少し心配になり、手を取ってトイレへと急いだ。
「大丈夫だよ、エド」
「とりあえず行っとけよ。俺も少し行きたいしな」
そう言って二人はトイレで分かれた。
「はぁ、エドに迷惑かけちゃったな。すごく心配かけちゃったみたいだし・・・」
ウィンリィはトイレで溜め息をついていた。
初めはワクワクしていたウィンリィであったが、意外と速くて驚きの反面、怖さが襲ってきた。そして始まる前はエドに酷いことを言ってしまっていた。きっと怒ってる、そうウィンリィは思ってしまって、立ち直れなかった。
「さてと、とりあえずエド待ってるし、行こうっと」
「エド!お待たせ!!」
「おう、もう大丈夫か?」
エドはウィンリィが心配で心配で、戻ってくるまでずっと拳を固く握りしめていた。
「じゃあ、あれ、乗るか」
次は何だろう、そう思ってウィンリィはエドの指さす乗り物を見すえた。すると、そこには大きな大きな丸い、そしてゆっくり動いている乗り物、そう、観覧車があった。
二人は手を繋いで、ゆっくりと観覧車へと向かう。その間は、一言も言葉を交わしはせずに。
観覧車、それは小さな個室に閉じ込められ、ゆったりと時間を過ごせる乗り物である。
今、エドとウィンリィはその個室のドアを閉められてしまった所。そして、徐々に移動する。二人は向かい合って座っていた。
観覧車の中には、両サイドに椅子のようなものが取り付けてあって、そこに座って周りの全景を眺める事が出来るのだ。一番高い所では、街全体が眺め回せるくらいだ。
もう時期頂上に辿り着く頃、ウィンリィは後ろの窓から全景を眺めるのに夢中になっていた。膝立ち状態で外を眺めている。
「なぁ、ウィンリィ」
気づけばウィンリィの隣にはエドが座っていた。ウィンリィはとても驚き、身を引いてしまう。
「な、何!?」
「その反応・・・軽く傷つくぜ」
エドは呆れたように肩を落とすが、すぐウィンリィに視線を戻す。ウィンリィを見すえるその視線は真剣でかつ何か企んでいる、そんな目をしていた。
「な、何よ・・・」
急にエドがウィンリィに近づいたため、少し身体を震わせながらエドから遠ざかろうとするが、もうウィンリィは後ろへは逃げられないし、背中はもう壁、片側は窓。もう片側はエドの腕。前にはエド本人がいる。
この体勢、まずいのでは、そうウィンリィは思い、エドを押しのけようと手を伸ばしてエドの胸元を押すが、手に力が入らない。
「どうした、ウィンリィ?」
「どうしたって・・・アンタこそ何よ」
声も振るえ、もう何されても抵抗出来ない気がする。ちょうど今頂上を通り過ぎた所であった。とうとう、エドは右手、機械鎧の方をウィンリィの腰に回し、自分の方へ引き寄せた。
「うひゃうっ」
「ウィンリィ・・・好きだ」
ウィンリィの頬にエドの左手が触れ、そして、エドは顔を近寄せた。ウィンリィはもう抵抗出来ず、目を閉じる事しか出来なかった。
数秒の事だったが、とても長くウィンリィには感じていた。
「アンタ、ずるいわ」
「何が?」
「私の返事、聞かずに・・・その、キス・・・・・・なんて」
ウィンリィは少しエドを睨みながら言う。
「私は・・・」
ウィンリィはエドから視線を逸らし、そしてエドに視線を戻して、抱きついた。
「私は、アンタの事、ず〜〜っと前から好きだったわよ!!」
そして、二人とも微笑みながらキスを交わしていた。
後書き
このサイト初の『鋼の錬金術師』小説です!
初めから結構甘い小説になってしまった模様(笑)
とりあえず、こんなデートしてくれたら可愛いな、なんていう妄想から始まった長い時間が費やされた小説なのでした。
どうも、こんなに長い物を読んで下さり、ありがとうございましたm(_ _)m
UPDATE:2006.09.03