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すれ違い
よく物思いにふける時がある。中でも、もしあの日、と考える事が一番多いかもしれない。
例として、賢者の石を探す旅の途中の宿泊先の事をあげよう。
僕は夜、眠る事が出来ないから、色々な事を考えてしまう。
いつ何を考えていたかなんてほとんど思い出せないんだけど、でもその時の事を僕は今でも鮮明に思い出す事が出来る。
賢者の石の情報がありそうな村で調査をしたのだが、この村もハズレであったらしく、賢者の石の情報が全く得られなかった。そして何も進展しないまま、いつものように夜を迎えた。
その頃は空気が澄んでいてそして肌寒い気温の冬前。風も冷たい。僕はそんな事も感じる事が出来ない身体。兄さんは今の気候を、毎日旅路で語ってくれる。僕は昔の感覚を思い出しながら、今兄さんが感じている気候を一生懸命感じようとしている。それがとても虚しくて、早く元の身体に戻りたいと強く思うのだ。
普段なら夜になってもそのまま山へ行ってみたりするのだが、三日間、あまり休む事なく探し回っていたので、兄さんの肉体上今日は休む事にした。僕は、疲れる事もない。眠くもならない。寒くもない。足も痛くない。しかしその分心が凄くズキズキと痛むのだ。兄さんのように疲れや痛みを持たない苦しみは、勿論何処の誰よりも強く持っていると僕は思う。
そして夜、寂しいだろう僕を気遣ってずっと側に居て話し相手になってくれた兄さんが眠りについてから僕は物思いにふけり始めた。
『もしあの日、父さんが家を出なければ・・・』
『もしあの日、母さんが死んでいなければ・・・』
『もしあの日、人体錬成をしていなければ・・・』
『もしあの日、兄さんが国家錬金術師資格試験に合格しなかったら・・・』
そしたら今の僕たちは存在しないし、今まで出会った人たちとも全くの他人だったのだろうか。そう考えると虚しくなる。
今兄さんは軍に属し、いつ兵器として戦場に狩り出されるかわからない状態だ。しかし、同じ時間を、同じ事を思う仲間と過ごす事が出来る。僕たちの苦しみをわかってくれる人たちを、僕たちは見つけることが出来た。
マスタング大佐、ホークアイ中尉、アームストロング少佐・・・。数多くの仲間に僕たちは巡り会えた。人は、必ず一人ではない。分かり合える仲間が、必ず存在するのである。
みんなに出会えたのはあの日母さんが死んで、人体錬成を行い、国家錬金術師資格試験に合格したから。だから、今の僕たちが存在するのだ。全てが、偶然のことであるはずなのに。
母さんが死んでいなければ・・・僕たちは大佐たちに会う事なく平和な日をリゼンブールで過ごしていなかったのだろうか。
街中で大佐たちと擦れ違っても、言葉を交わす事なく通り過ぎるのだろうか。
今僕たちが過ごしているこの環境・・・これは、偶然の積み重ねなのだろうか。それとも、こうなる運命だったのだろうか。それとも、仕組まれたものだったのだろうか。答えは何処にもあるはずはない。誰も知らない事である。みんながみんな、平等に生きているのだから、各々の感情で生きている。こうなるよう決められていたわけでも、誰かに指図されたわけでもない。ただ、僕たちがそう生きようと思ったから、今の僕たちがいる。
『一は全、全は一』
そう師匠に習った。僕たちは『地球』という大きな流れの中に存在し、個人が集まって出来た大きな塊。しかし、その一つでも流れに逆らえばたちまちその『流れ』は乱れてしまう。これが僕たちが初めて習った事。
錬金術だけの理ではない『等価交換の法則』
これは「何かを得る為には、それと同等の代価が必要になる」と説いている。今の僕たちがいるのは、『努力』という名の代価を払ったから。何でも、努力すれば必ず何かを得る事が出来る。努力なしでは何も手に入らない、ということ。
そう、僕たちは流れの中を生き、生きる為に努力して、そして死んでいく・・・。誰かが指図したわけではない。僕たちは生きようと努力して、ここに存在している。
僕たちはその与えられた環境の中、与えられた運命の上、そこを真っ直ぐ進まなければならないのだ。
後書き
鋼第二弾です!シリアスを目指して書いてみました。どうでしょう・・・??
本当、偶然って怖いですよね;;;もしお母さんがお父さんと結婚してなかったら、自分は存在しないんだもんね。
むしろおばあちゃんが戦争の真っ只中にいたから、そっちの方が凄いです。ありがとうございますですだよ本当。
まぁエドと大佐が会ってなかったら街中ですれ違っても全く会話なしなんだろうな、そう思ったところから始まりました。
皆様も、今を共に生きている家族や友達を大事にして下さい(そこへ繋げたかったらしいです
UPDATE:2006.11.11