涼しさの奥にあるもの
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どの隊も慌しい夏の季節。しかし、十番隊だけはゆっくりと時間が過ぎていく。現世のように冷房のない尸魂界。部屋の窓を開けるだけしか暑さをしのぐ方法はないのだが。
この十番隊は窓さえ開けずにみんな涼しげな顔で仕事に励んでいた。何故か?
いつも夏になるとあまり十番隊の隊員たちは隊舎から顔を出さない。それに気づき始めた他隊の人達は十番隊を探り始めた。
その調査員はたった一人。それは六番隊副隊長の阿散井恋次だった。まず、十番隊の隊員の身近な人からの聞き込み調査。
「何故夏になると部外者を入れまいとして結界を張るのか?」「何故夏になると誰も十番隊から出ないんだ?」
の二つをまず探る事にした。
十番隊へ向かう途中、十番隊隊長日番谷冬獅郎の幼馴染みであり恋人同士のように見える五番隊副隊長雛森桃にであった恋次は、とりあえず夏の十番隊の謎について訊いてみた。
「えっ!?結界?」
「そうなんだ・・・。なんで結界張ってまで隊舎に誰も入れさせないんだ・・・」
「な、なんでだろうね、アハハ。私わからないや。じゃあまたね」
そう言ってそそくさと十番隊とは逆方向へと逃げて行った。さっきは十番隊に向かっていたのに。
まさか、何か知っているのか、と後を追いかけようとしたその瞬間の事である。
「おい、阿散井。雛森追いかけようたぁどういう事だ?」
「ひ、日番谷隊長!?」
何故あなたが此処にいるのですか、そう訊くにも訊けないような目つきでこちらを睨む日番谷に圧迫されたかのように地べたに座り込んでしまった恋次であった。
「お前・・・言いたい事があるなら言え」
「え?」
「何か言いたそうだなって思ってさ」
「いや、その・・・・・・」
恋次は、あなたの隊は何故結界を張ってまで侵入者を防いでなおかつほとんど隊員は隊舎から出て来ないんですか、そうボソボソ呟きながら訊いた。
それを耳を澄ませながら聞いていた日番谷。
「んな事調べまわってやがったのか、てめぇは」
と言って呆れ果てていた。
「いや、俺の斬魄刀の能力だよ」
「氷輪丸、ですか?」
「あぁ。氷輪丸に氷を大小様々な入れ物の中に氷を吐いてもらってさ、それを至る所に置いているわけよ。その冷気が逃げないように結界を張って、この涼しさを他の隊には譲りたくないという部下の要望に応えて、誰も入れないしそれに誰も出たくないってわけだ」
なんちゅー隊だよ、そう思ってしまった恋次だが、それを言葉として出すのは不可能だった。
「おい、中に入れてやるから誰にもこの事言うんじゃねぇぞ?」
「あれ、でも雛森は知ってたみたいですよ?」
「ったりめぇだ。毎日涼みに来てる」
「なるほど」
流石、ラブラブと言うべきか、バカップルと言うべきか・・・毎日とはやるなぁ、そう思うが心の中だけに留めておこうと恋次は思った。
きっとあの時、涼みに来る途中だったんだろうな、雛森。
「隊長、雛森追わなくていいんスか?さっきここ来る途中だったみたいですよ?」
「あぁ。お前を隊舎に入れてから呼びに行くよ」
幸せそうな二人の絆を思いながら、吉良が無性に哀れに思えてしまった恋次であった。
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