落花流水
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どのくらい歩いただろうか。というほど歩いてはいないと思うが、俺達は桜並木にいた。
「綺麗だね、日番谷君」
俺は前面桃色のこの風景に見入っていた。どうしても雛森しか浮かばない。まぁ隣りにいるからっていうのもあるし、桃色っていうのもあるが、連想されるのは雛森ただ一人。
はらはらと舞う桜の花びら。掌を出すと、その上にゆっくり一枚の花びらが腰を下ろした。雛森はその花びらを見つめていた。
「桜の花びらって、ふわふわしてて可愛いよね、なんか」
まさに俺が今思っていた事と同じだった。桜の花びらは、よくよく考えると、男の、女に求める理想そのものだ。ふわふわしていて、掴み所がなくて、だけど掴んでいないとどこへ舞い踊りに行くかわからない。そんな雰囲気のある女は、守りたくなるのだ。
桜並木のすぐ脇には川が流れていた。その川は、春になると印象をごろっと変える。普段はただの水を流すための道でしかないその川は、春は桜の花びらを運ぶ役目を貰う。だからその川は桜が大好きだろう。その川も存在していて良い事を教えてくれるんだから。
川にとっては年に一度の大仕事。各地の男に、大切な事を伝えに行く。
――好きな人には好きって伝えたかい?――
ふっと俺の心にその言葉が届いた。川と桜の花びらが教えてくれたのだ。
「どうしたの?シロちゃん?」
目を見開いて桜と、桜の花びらを運ぶ川を見ていた俺を、雛森は少し心配そうに見ていた。
俺の気持ちは高ぶっていた。桃色のこの世界。男の好みにピッタリ当てはまる女。滅多な事に出会えない。しかし、俺は幼い時から一緒にいて気づけなかったのだ。
「雛森・・・・・・」
俺はまだ子供だ。だけど背伸びをするつもりもない。俺は俺だ。まだ無理かもしれないけど、いつか、いつの日か、俺はお前に大切な事を伝えたい。それまでは絶対知らない人にならないでくれるか?俺の隣りにいてくれるか?
こんな俺でも、ここにいていいんだって思わせてくれる雛森が好きだ。いつか大きくなったら、お前を守れるくらい強くなったら、この事、絶対伝えるから。待ってろよ、雛森!
花びらは舞い踊り、流れる川で泳ぎ、共に生きていく。
何処かで別れるかもしれないけれど辛くはない。
だって心では信じあっているから。
気持ちが揺らぐ事もあるかもしれないけど、川なら大丈夫。
また来年、会いに来るから。
年に一度しか会えない星の物語のように、
川と桜の間、そして俺とお前にも
切っても切れない絆が
存在するのかもしれない。
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