真昼の月

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「月・・・・・・・・・」


現世に赴いたその日の昼間の事である。

十番隊隊長である日番谷は、昼間の空を眺めたまま動かない。


「日番谷隊長、どうかされましたか?」


共にお昼をとっていた恋次が声をかけていた。

しかしそれは当の本人には全く届かぬ声だった。


「隊長?」


何度目だろうか、ようやく日番谷はこちらを振り向いた。


「呼んだか?」

「何度呼んだと思ってるんですか?空なんか眺めちゃって」

「いや、昼間に、月なんか見えたか?」


日番谷には珍しかったのだろうか、それがずっと気になっていたようだ。


「こっちだと、よくあることだそうですよ」

「そうなのか・・・」


何かに似ている、そう呟いた声が恋次の耳に届いた。


「昼間でも輝いていたいんでしょうね、月にしてみれば。太陽だけにお昼を独占されたくないんでしょう」


意味深な言葉を発しながら、恋次を空を見上げた。太陽に雲がかかり、空が少しだけ暗くなり・・・。

こんなにいい日は、他には訪れないだろう。


「あいつと、見たかったな」


切なそうに日番谷が呟く。

それを聞いてしまった恋次だが、聞こえなかった事にして。


「隊長、早く食べちゃいましょう、午後の授業が始まっちゃいます」

「おう、そうだな・・・・・・・・・」


最後に、目の裏側に焼きつけておこう。

もう二度と、見れないかもしれないから。

今にでも、虚に襲われてしまうかもしれないから・・・・・・・・・。

あいつにも、会えなくなってしまうかもしれないから・・・・・・・・・。

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