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一番大切なお前と…

  第四章



それからまもなく、十四郎と烈が部屋に入って来た。二人の腕には、綺麗な服が用意されていた。
「さぁ、二人の晴舞台だ!気合入れていくぞ、烈!!」
いつになく陽気な十四郎に呆れた烈は、クスクスと笑みを浮かべている。
「あなたが気合入れてどうするんです?それと冬獅郎。雛森さんのご家族に、お声をかけておきました。そのうち来るでしょう。」
「えっ!?桃呼んだのか?」
ええ、と烈は今まで見た事がないくらいの綺麗な笑顔で答えた。それには流石に歯向かう事は出来なかった。
さあ着替えるぞ!と十四郎は冬獅郎の腕を掴んだ。烈は郁夏を連れて、隣の部屋へ行った。

十四郎に手伝ってもらいながら、今まで着た事がない、かしこまった衣装をまとい、少し違和感を覚えながら冬獅郎は雛森家と郁夏を十四郎と待っていた。
すると数分後、ドアの開く音がした。
「こんにちはー。雛森です。いつもお世話になりました。」
桃の母だ、と冬獅郎は十四郎に伝えた。十四郎はそれを聞いて玄関の方へと向かい、「さあこちらへ」、と荷物やら何やらをまとめて雛森一家を招き入れた。

「シロちゃん。似合ってるよ、無駄に。」
雛森は冬獅郎を見るなりそう口にした。「一言余計だ」、と言いたげだった冬獅郎だが、そんな短気な言葉を郁夏に聞かれたくなかったので喉でそんな言動を止めた。

「宜しいでしょうか。」
隣の部屋から烈がこちらに話しかけていた。十四郎は冬獅郎に目で合図をした。冬獅郎は小さく頷き、その場に立った。十四郎は隣の部屋の襖の前へ行き、襖を少しだけ開いた。向こうには烈が見える。何やら十四郎と話しているらしい。
話が終わると、十四郎は襖(ふすま)を徐々に開いた。すると次第に郁夏の姿が見えるようになった。襖が完全に開くと、郁夏の目は完全に冬獅郎を捕らえ、二コリと微笑んだ。その笑顔もそうだったが、郁夏の着ている服装と髪型に、冬獅郎の目は釘付けになった。

淡いピンクの着物には、少量の赤い薔薇が綺麗に、そして強く咲いている様な柄が描かれている。そして帯も、郁夏の好きな赤が主であった。また、郁夏の髪型は普段とまた違い、桃と似た様に後ろの高い所で団子にしていた。そして冬獅郎を見据えるその眼差しは、今後自分に全てを託そうと心に誓った、そういう目をしていた。

郁夏はゆっくりと冬獅郎へ向かって歩き出した。そして、冬獅郎の横へ来て、お待たせしました、と頭を下げた。
「べ、別に気になんかしてねぇよ!」
冬獅郎は小声でそう言って雛森家の居る方へ向き直った。十四郎と烈が雛森家の隣りまで行き、冬獅郎達の方へ向き、司会をし始めた。

「えー、これより浮竹冬獅郎と真間郁夏の結婚式を始めます。まず、冬獅郎、あなたはこの家系の主として、家系を支える事を誓いますか?」
「ああ、誓う。」
「それでは、郁夏、あなたは冬獅郎の妻として、一生涯冬獅郎を愛する事を誓いますか?」
「ええ、誓いますわ。」

それでは、と十四郎は名字をどうするかを尋ねた。まだ考えていなかった、と郁夏は冬獅郎にチラリと視線を送った。しかし、冬獅郎は考えていたらしい。あなたに任せます、と郁夏は冬獅郎から視線を外した。

「名字は、人は毎日平凡なだけではく、デコボコした所を歩いて生きていく。落ち込んだとしても、一番大切なやつと、これから出来る新しい家族と毎日一緒に乗り越えて行く、それで、『日番谷』だ。」
「まぁ、いい名字ですわ。」
「それでは、その『日番谷』を今後名乗る事をここに誓いますか?」

冬獅郎と郁夏はコクリ、と頷いた。それでは、と十四郎は数秒間を空けた。
「誓いのキスを………」

十四郎は今後も温かく見守ってあげたいという気持ちと寂しさで、切なそうにそう言った。
冬獅郎と郁夏は、その場で向き合った。

「冬獅郎さんから、お願いしますわ。」

郁夏はゆっくりと目を閉じた。冬獅郎は深く深呼吸をし、気持ちを落ち着かせた。そして郁夏の頬に手を伸ばした。柔らかい郁夏の頬に少し動揺しながら、郁夏の唇に自分の唇をゆっくり、確実に近づけ、口付けた。


「おめでとう、冬獅郎、郁夏さん。」

烈は優しく二人を包み込むように言った。そして、冬獅郎はゆっくりと郁夏の唇から顔を離した。郁夏は冬獅郎の唇が離れて行くのを感じ、ゆっくりと目を明けた。
十四郎はそれを確認すると、笑顔に戻った。

「それでは、日番谷冬獅郎と日番谷郁夏の結婚式を無事閉めたいと思います。それでは…」

十四郎はそこでまた、間をあけた。その間、長い沈黙が流れた。

「今から打ち上げだー!!冬獅郎と郁夏殿の結婚祝いを今からここでやるぞ!」

冬獅郎と郁夏は顔を見合わせ、十四郎の元気の良さに笑った。
十四郎は机と座布団を持って来ると、すぐに烈を呼んで食べ物やら飲み物やらを取りに行った。

「シロちゃん、おめでとう。」

雛森は改めて冬獅郎に祝福の言葉を投げかけた。雛森はまだ、冬獅郎が十番隊の隊長になった事を知らない。そろそろ言わなきゃな、と郁夏と目で合図を交わしていると、十四郎と烈が戻って来た。

「あの…伝えなくちゃいけない事があるんだ。」

冬獅郎は郁夏から視線を外し、みんなの方へ向き直った。そして、自分が十番隊の新しい隊長になる事を発表した。十四郎は先程聞いた、と頷いていた。初めて聞かされた烈や雛森一家は驚いて体を引いた。

「ほ、本当なの!?シロちゃん!!」
「ああ、明日から、の予定だ。な、郁夏。」
「ええ。」

史上最年少なんじゃないか、と桃達は小声で話していた。桃は既に五番隊の副隊長。ずっと憧れていた藍染隊長の副隊長になっていた。

「というわけで、だ。今後も宜しくお願いします。」

すると、冬獅郎は深々と頭を下げた。みんな、いつの間にか大人びた冬獅郎に驚いて何も言えなくなっていた。頭を下げる冬獅郎の事を、みんな目をパチクリさせてただ呆然と見ていた。
それから数秒後、桃が良かったじゃない、と冬獅郎の頭を撫でた。

「おい、撫でんなよっ!!」

冬獅郎は自分の後頭部を桃に撫でられてビックリしたのと焦りで飛び上がった。
変わっていない幼馴染みに安心したのと、突き放された感覚のするのとで妙な感覚を覚えた桃だったが、自分より遥かに成長した幼馴染みを温かく見守る事を決意し、自分も頑張らなくちゃ、と手を握った。


「さあて、冬獅郎と郁夏の結婚記念と冬獅郎の隊長就任祝いを始めるぞ!」

十四郎は改めてそう言い放ち、みんなはまた笑顔に戻った。しかし、十四郎の心はまだ笑顔を作る事など不可能だったが、懸命に表に出さない様に努力をしていた。自分の愛する息子が、結婚し、はたまた同じ護廷十三隊の中の十番隊の隊長になった事、とても悔しいが、息子が元気でやって行ける様、遠くから温かく見守らなければならないと実感した。


宴会はそれから暫く続いた。雛森家は程々の所で帰っていたが、浮竹家と日番谷家は夜遅くまで宴会をしていた。もう暫くこんな風に過ごせる日はないのだろう、と冬獅郎は思い、宴会の一つ一つを大事に思いながらいた。



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