第一章
第三節
入学式が終わると、次は新入生歓迎会。行われる事は部活動紹介。だが、紹介だけではない。挨拶以外にもパフォーマンスも行われるから、運動部はダンスでアピールしたりそれぞれの種目などを演技したりする。例えば柔道は組手などを演技。卓球は実際に打ち合いを、挨拶をする部員の後ろで行ったりするものである。
冬獅郎は隣りの輪太とどの部活にするか、のトークに花を咲かせていた。
話によると、輪太は中学では美術部に所属していたらしい。そして彼の作品は、市内の展覧会などに出品されるほどだったらしい。冬獅郎はそんな彼の絵画を一度でもいいから見たい、と頼むと、彼は嫌な顔一つせず許可してくれ、今度見せてもらう事になった。
「冬獅郎は何部だったんだ?」
「・・・・・・だよ」
「へぇ〜〜〜」
輪太以外に聞こえないよう彼の耳の側で冬獅郎は自分の中学時代やっていた部活を答えた。そしてそれは、自分がこれから入る事になる部活とは全く違う系統の部活であった。
パフォーマンス付の部活紹介の始めはやはり吹奏楽部から始まった。この高校の吹奏楽部は結構強い方で、そして演奏しながらの演技も素晴らしかった。それを見た新入生たちは、自分も入ろうかという囁きも聞こえ、素晴らしさは手に取れるようにわかる。そしてそれとは対照的に、吹奏楽部の辛さを知る物は、更に辛いのだろうと想像してしまい、入る気が薄れていくのもわかる。
そして色々な部活が紹介され、5つ目である。
「続いては剣道部です」
そのナレーションに合わせて舞台に上がってきた竹刀を携えた先輩たち。素振りや胴打ちなどを、説明するスキンヘッドの先輩の後ろでやってのける先輩たち。そして続いて舞台に上がってくる女性が・・・・・・。
「そしてぇ、この人が俺たち剣道部を支えてくれる唯一無二のマネージャー!部員は勿論の事、マネージャーも募集中だから是非剣道場まで足を運んでくれ!」
「待ってまぁ〜す☆」
「唯一無二のマネージャー」と言われたその女性。彼女は「美人」としか言いようがないほどの美しさであった。胸は制服が張り裂けそうなほど。よく平気だな、と思いながら、自分もあの先輩と同じマネージャーをしたい、と日番谷の斜め後ろの席で目を輝かせていた少女がいた。
その次はサッカー部であった。部活を紹介する先輩の後ろで踊る男子生徒たち。彼らの中に、冬獅郎の知る者がいた。彼は朝、新入生案内をしていた赤みがかった色の髪をしたパイナップル頭の先輩であった。
冬獅郎は彼を見つめ、先ほどのボインなマネージャーのいる剣道と、不良っぽいが優しそうな先輩のいるサッカーか、放課後まで迷っていた。
と言う感じで終わりを迎えた新入生歓迎会。先輩たちは演技が終わった安心感と、ちゃんと後輩が入ってくれるかという不安でいっぱいだった。
この学校の部活は、運動系はサッカー、野球、バスケ、バレー、テニス、バドミントン、剣道、弓道、卓球、柔道、空手、陸上部の計十二の部活がある。また、文化系は吹奏楽、美術が主流で、他に細々とした研究部がいくつかある。
水泳部がないのは、この学校にプールが設置されていないから。なので夏場の暑い時期でも、水泳の時間がないため、暑い中授業をしなければいけない。私立ではないのでクーラーは校長室と職員室、教務室、会議室、図書室くらいにしかついていない。あとは吹奏楽部の練習場所となる所のみであった。
「で、冬獅郎は決めたか?部活」
「あーーー、サッカーか剣道か迷ってるんだよ」
「それなら剣道にしようよ!」
後ろから、懐かしい女子の声がした。懐かしいと言っても朝一緒に登校した桃なのだが、教室で初めて聞く女子たちの声を聞いていたからとても前のような気がした。
桃は、剣道部のマネージャーを見て、一緒にマネージャーをしたいと感じた事を冬獅郎に告げた。その光景を目の当たりにした輪太は一言。まあこういう場合第三者が発する言葉なんて決まっているものだ。
「彼女いたのか」
そして決まって返事は男女共に否定するのが当たり前のような気もする。そして彼ら二人も、声を大きくして否定した。
「ちげぇ!!」
「そんなんじゃないよ!」
全くの同時だった。二人の声が被さり、さらに大きな声に聞こえ、耳が痛いくらい。しかし二人とも必死に否定している。ぷっと輪太は少し微笑んだ。そしてこの度初登場である桃に名前を聞いた。
彼女は答えるなり、クラスの方へと戻って行った。何故ならそこは既に四階だったからだ。桃はルキアと合流して自分のクラス、D組へと向かった。
「で、どうなんだ?」
「何が」
桃ちゃんとはどういう関係なんだ、本当の所付き合ってるのか、と輪太は興味深そうに聞いた。輪太は小学校・中学校共に、男女仲良く話しているのは付き合っているという事だ、という認識があって、そういう場面を見ると、ついつい友達ならそう聞いていた。
毎回毎回イエスの答えしか聞いていなかったから尚更。輪太には女友達なんていないし、男女仲がいいなら付き合えばいいじゃないか、そういう考えに走ってしまうのである。
「ただの幼馴染みだ」
「そんな事言ってぇ。実は好きなんだろ?よくあるじゃん、漫画とかでさぁ。幼馴染みは最終的にくっつく運命なんだよ」
「んだそれ。漫画の読みすぎじゃねぇの?」
「じゃあお前は現実を見すぎなんだ」
最早何の討論かわからなくなっていた。
確かに漫画では幼馴染み同士は互いをよく知っている故に辛い運命を共に背負い、最後には手を取り合いハッピーエンド、というのがほとんどだ。それだから自分たちもそういう風に言われてしまうんだ、とあまり冬獅郎は漫画は読まないようにしていた。
逆に桃はどうなのかは知らなかった。もし恋愛感情があったとしても、冬獅郎の知った事ではない。
教室に戻り、冬獅郎と輪太はメールアドレスの交換をしていた。今冬獅郎の携帯電話に登録されているのは、家族のものと桃、イヅル、ルキア、その他数人の中学生の時の友達くらい。
だからこそ、これから友達を増やしていこうと冬獅郎はクラスを見回した。
一年C組は男子二十二人、女子十八人の計四十人のクラス。全ては無理だとしても、クラスの三割くらいは仲良くなりたい、と入学前から思っていた。
これで一人目、と登録ボタンを押した時、藍染先生が大きな箱を手に戻って来た。中には自分たちに配る資料などが入っているようである。その数枚が風で飛んで自分の所へ落ちたのでわかった。
冬獅郎は前から二番目。出席番号は三十番。背が低めの自分にはちょうどいい席であった。一番前はこう・・・入学したてだと色んな先生に話しかけられてちょっと大変である。
自分の机の上に落ちた書類を藍染先生に手渡しすると、先程の新入生代表の話、うまかったよ、と褒めてくれた。別に褒められるのが好きだから頭が良いわけではないです、と苦笑いを浮かべながら自分の席に着いた。
どんな場合であろうと、冬獅郎は褒められるのは好きではない。自分の努力は自分にしかわからない。誰にも同情してもらおうとは思ってなどいないからだ。人は十人十色というが、本当にその通りだ。桃は昔から「凄いな」と何気なく冬獅郎が口にした言葉を、根から喜び、ピョンピョン跳ね回っていた事があった。自分じゃあそこまで喜ばない。
自分一人で全てを抱え込まなくていいんだよ、と桃に言われた事がある。別に抱え込んでるわけじゃないんだ。嫌いなだけ。喜びも、悲しみも、何もかも他人に同情されるのが嫌いであった。
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