第一章
第二節
当たり前の事であるが、学校は「起立」の合図で皆立ち上がり、そして「礼」の合図で礼をして着席する事から始まる。勿論この学校もそうで、藍染先生の起立、という合図で皆一斉に立ち上がった。やはり皆始めは真面目なんだな、と日番谷は感じながら礼をして座った。しかし時が流れれば、始めの真面目さはなくなり、そして皆自分のペースで生活し始める事であろう。
そして毎度の事ながら、先生の挨拶、そして今日の予定などの説明から始まり、皆真剣に聞いている。今日の予定は勿論入学式の話。日番谷と吉良を含めクラス全体が真剣に聞いていた。
「今日は知っての通り入学式。終わったら先輩たちのパフォーマンスつきの部活動紹介があるから、よく見て聞いて、自分の入りたい部活を決めるように。それから、入学式の入場の仕方なんだけど、出席番号順で1〜20が右、21〜40が左、という風に並んでもらって、体育館に入ればわかるけど左右に分かれて長いすがあるからそれぞれで奥からつめて座ってもらえばいいよ。他はね、僕が皆の名前を読むから、呼ばれたらはい、と大きな声で返事をして立ってくれればいい。クラス全員呼ばれたら僕の『着席』の合図で座っていいよ」
このくらいかな、と藍染先生は今日の入学式の流れを説明してくれた。そして、分かっていたが冬獅郎に視線を移して新入生からの挨拶の話をし始めた。
「そうそう、新入生の挨拶はこのクラスからなんだよね。日番谷君、準備は出来ているかい?」
「はい、大丈夫です」
「それならいいんだ。じゃあ皆、入場の放送が入るまでトイレ休憩してていいよ」
ホームルームが終わると、やはりこういう雰囲気では皆新入生挨拶の本人に気を示して話しかけるのが普通なのだ。ましてやその本人が小さめの男子で髪を立て、結構格好良い方なので女子に囲まれるのがオチなのである。
そしてC組でも、先生がトイレ休憩と言っていたのに、決まって日番谷の回りに集まった。そして彼女たちはホームルーム前に教室の真ん中で喋っていた子たちがほとんどだった。
「すごいね、じゃあ学年トップなんだぁ」
「どこの中学だった?」
ガヤガヤと日番谷の周りで盛り上がっているのをつまらなそうに見ている吉良の所へ、この教室に入った時ドアの前で会ったあの女の子が駆け寄ってきた。
「こんにちは。さきほどの方ですよね?私は真間郁夏と言います。あなたは?」
「あぁ、僕は吉良イヅル。よろしく」
「こちらこそ。すごいですね、あの方。お友達ですか?」
話を聞くと、彼女も日番谷と同じくらいの成績で入学したらしく、自分が代表挨拶でなかった事が悔しかったらしい。
しかし自分の力不足だったんだ、と春休みに実感して、それからもちゃんと勉強を積み重ねてきた、と笑顔で言っていた。だから、と女子に囲まれて少し戸惑っている日番谷を見ながら、定期テストでは負けない、と郁夏は真っ直ぐな瞳で見据えて言った。
そんな彼女を見て、イヅルはこの教室はとんでもないほど頭がいいのでは、と普通の成績で入学した自分の順位を心配しなければならない羽目になった。
「ねぇ、放課後にさ、メアド聞いてもいい?色々話したいしさ!!」
「俺は大した用事じゃなかったら返事出さねえからな」
「ケチだな、日番谷君は」
ケチで結構、とピシャリと冬獅郎が言ったのとほぼ同時に放送が流れ、ついに入学式本番となった。女子たちはじゃあ放課後ね、と行って廊下へ出て行った。日番谷はようやく囲いがなくなった、と肩を落とし、自分も廊下に出て行った。
「おい、優等生!!お前はここだぞ」
冬獅郎の後ろの席でずっと囲まれていた姿を見ていた男子が、自分の場所が何処だか迷っていた冬獅郎の肩をポンポン叩いた。
「あ、ども」
「すげぇじゃねぇか、学年一位!俺なんか真ん中より下だぜ、多分。あ、言い忘れてた。俺は氷山輪太ってんだ、よろしくな。お前は名乗らなくてもいいぜ。もうだいたいさっきの会話でわかった」
彼の笑顔で元気が出てきた冬獅郎は差し出された手を握り返した。そして輪太となら仲良くやっていけるような気がして、あとでメールアドレスを交換する約束をして体育館へと足を進めていった。
入学式。それはその学校に今年入ってくる一年生の名前をただあげていくだけの式。はっきり言って無駄だと思っていた。だから、新入生代表の挨拶だって、去年もほとんど聞いてはいなかった。自分と同じ学年だったのに。
去年誰がやっていたかなんて聞いてなかったから覚えてもいない。だから今年も本当は聞く気が全然なかった。
「それでは新入生代表、一年C組の日番谷冬獅郎君、お願いします」
難しい名前だな、そう思った。だから学年トップで入学したのは頷ける気もする。
そして、はい、と返事をするその声は、緊張を隠しているような、そんな声に聞こえた。俺は聞く気がなかったから、その頃は名前も「難しい」という雰囲気しか残らなかったし、それ以上の感情なんて持っての他。
その代表が呼ばれると、マイクが上級生の前の台の上に運ばれ、そして、今まで司会の先生が使っていたから高かったそれは、生徒会役員によって下げられた。
その難しい名前の代表がマイクの前に立った途端、周りがざわついた。自分のクラスも、だ。
何事かと思って顔を上げると、そこには朝、自分が彼の教室まで案内した小さめの少年がマイクの前に立っていて、生徒会に文句を言っているところであった。
「高すぎだ、このマイク」
それが一番印象的だった。周りにはいつもこういう挨拶は全然聞こうとしていない自分が珍しく聞いているぞ、そう呟いているのも全然聞こえなかった。だって俺は冬獅郎の挨拶を聞いていたわけではない。一生懸命自分たちに語りかけるその姿だけを見、そして彼について色々物思いに耽っていただけなのだから。
どんな人生を歩んできたのだろう。どんな風に勉強しているのだろう。あんな場所に立たされて全く知らない人たちに語りかけるのってどんな気持ちになるのだろう。
どれも成績が振るわない自分にはわからない。また話せる機会があればそんな事を聞きたい、そう思った。
彼の挨拶が終わり、彼は一礼して自席へとゆっくり戻っていくその後姿は、ようやく終わった、という安心感ならぬものを感じた。やはり優秀者でも緊張はするんだな、そう実感した。
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