第二章
第一節
資料を配り、昇降口に靴をしまい、今日の出来事は全て終わり。あとは家に帰って親に色々話すだけだ。とりあえず桃の携帯電話にメールを送った冬獅郎はすぐに、クラスの女子に囲まれた。
「メアド教えて!」
「お、おう。じゃあ面倒だからこの中の誰かに教えるからあとは回してくれるか?」
「了解!えーと、じゃあ誰かが他の四人に送ればいいのかな?」
「じゃあ日番谷君、ちょっと借りるね」
面倒なので女子に任せる事にした冬獅郎は、自分の携帯電話を彼女に渡した。彼女はそれを見ながら自分の携帯電話に打ち込んでいる。慣れているのだろうか、タイピングがとても速い。そして打ちながら、そのあと自分へメアドと名前を添えて送るから、と確認してくれた。
彼女が打ち終わると、他の女子へと送信していた。彼女たちは同じ中学校出身だそうだ。どうりで朝から元気にずっと話しているわけだ。
「まぁとりあえず自己紹介。私は佐藤茜雫。“あかね”に“しずく”だよ」
先程自分の携帯電話を受け取った彼女は、まだ自己紹介してなかったね、と言って頭を下げて名乗ってくれた。
他の女子たちも次々と名乗ったので覚え切れなかったが、あとでメールが来るだろうと思ってあまり聞いていなかった。
彼女たちと別れ、昇降口へイヅルと向かうと、すでに桃とルキアは待ちぼうけていた。
メールで少し遅くなるとは言ったが、ちょっと長すぎたようだった。二人とも自分達を見つけるなりキッと睨みつけた。
「んもー、初日から遅れすぎだよ〜」
「悪い。メアド交換してたんだ」
「早いな。流石優等生だな、日番谷」
「んだよ、朽木。向こうから交換しろって言ってきたんだからしょうがねぇだろ」
そんな会話をしながら靴に履き替え、朝来た道を戻っていく。
桜が綺麗な通学路。延々と長いこの道のりを華やかに飾ってくれている桜の花びらが風に吹かれて舞っている。十五分ほどかかるこの道のりも、この時期だけは今の心の中の如く柔らかい雰囲気が漂う。
明日からは部活見学が出来る。覗いてみたい部活も結構あったし、時間の許す限りみんなで見学しに行きたいと冬獅郎は提案した。それに反対する者はいなかった。明日はみんなの行きたい所を回る事にした。だからもしかしたら分かれる可能性もない、とは言い切れなかった。
家に帰った冬獅郎だが、玄関は鍵が閉まり、家に入っても誰もいなかった。溜息をついて自室に鞄を戻し、配られたプリントに目を通した。
四月の予定表
数日間の予定表
宿題の提出
初のテスト実施について
保健便り
図書館通信
があった。親に見せるべきものはなく、ほとんど自分の物だ。
「とりあえず居間に置いとくか」
着替えたあとプリントを持って居間に戻った冬獅郎は、そこに置手紙が置いてある事に気がついた。
それは母親が執筆した物で、恐らく自分が出た後置いたのだろう。自分といつも変わらないくらいに仕事に行く母親だが、今日は急いでいたらしくギリギリだったらしい。字が雑であった。
“冬獅郎、私は今日暫く帰れません。雛森さんのご両親に先日頼んでおいたので、今日はそちらで昼食と夕食をご馳走になって下さい。夜には帰れると思いますが、作れそうにはありませんので”
そう書かれていた。溜息をつき、その紙をぐしゃぐしゃに丸めて自室にこもった。ベッドに投げてある携帯電話がブルブルと震えていた。誰かからメールが届いたのだろうか。
「そういや後でメール送るとか言ってたっけか、あいつら」
携帯を拾い上げると、件名に“1Cの大谷冬海です”と出ていた。茜雫と共にいた中の一人という事だ。しかし前にも六通届いていて、きっと鞄の中にあったから気づかなかったのだろう、と全て目を通した。
全部で五通来ていて、一人は茜雫。学校を出た頃くらいに自分のアドレスなどを送ってくれていた。他の四人は茜雫と一緒にいた者。浅田かおり、大谷冬海、木村歌音、林川エミリという名前で届いていた。そして冬海から届く前に桃から届いていた。
“お昼出来たら連絡するね!”
という事だった。既に両親から聞いたのだろう。とりあえず桃からの連絡を待つ間の時間を過ごす事になった。
「とりあえず勉強しとくか」
宿題の範囲で数日後に実力テストが行われる。冬獅郎として、校内の学年一位を逃したくはないので、自信がないわけじゃないのだが勉強しないと気が済まなかった。
空気を入れ替えるつもりで、机の横の窓を開けた。冬獅郎の部屋には二つ窓がついていて、一つはベッドの横、そしてもう一つが机の横の出窓である。出窓にはうっすら埃が積もっている。四月になったくらいに掃除した部屋だが、一週間も経つと埃が見えるほどにもなってしまって、たまにそのせいで喉がおかしくなることがある。今日は掃除する気力もなく、ただ“勉強したい”の一心で問題集を開く。
と、その時だ。
「シロちゃん!お昼出来たよぉ!!!」
雛森の家と隣同士なので自分たちの部屋の窓から相手に話しかける事も出来る。そっちを見ると桃が窓を開けてこっちに手を振っている。それに振り返して、冬獅郎は家を出た。
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