第二章
第二節
今日から部活見学が始まる。昨日もだったが、先輩たちの部活勧誘は激しい。新入生を見つけるとすぐに紙を持ってにこやかにやってきて「是非うちの部活に入ってね!」と手にしたビラを配って去っていく。はっきり言って入る予定のないところから来るとうざいものなのであるが。
朝、桃とルキアと分かれて、吉良と共に自分の教室に入った時、すでに来ていたクラスメイトに声をかけられた。
「おはよう、日番谷君!」
「おう」
と愛想のない返事を返してしまったが気にしていない様子で笑顔で席に向かう。彼女たちは茜雫とかおりで、二人も早く来てしまって窓から外を眺めながら話していたようだった。
念のため早めに学校に向かおうと打ち合わせを昨日桃の家にご飯を食べに行った時にしたのであった。早く着いたらやることがないのだが、冬獅郎は勉強道具を持って来ていた。
「おはよう、日番谷君でしたっけ」
振り返ると髪を肩の少し下まで伸ばした女の子がにこやかに笑いかけていた。
照れ屋な冬獅郎は即座に目を逸らし、曖昧な返事をかえしてテキストに目を向ける。
「偉いですね。流石優等生。でも、私も負けませんからね?」
「どういう事だ」
「私も恐らく同じくらいの成績ですから」
「自信あるんだな」
「えぇ、それなりに。でも甘く見ていたせいでトップを取り損ねたので私も頑張ります」
目をテキストに這わせた状態のまま淡々と冬獅郎は相槌をうっていた。
「あ、郁夏!ごめんね、先に行かせちゃって」
「あら、紅ちゃん。それにしても早いわね」
「ちょびっと寝坊しただけだから。そんで優等生、郁夏を抜かすなんざ許さないぞ〜〜」
「おい、お前ら、まず名乗れよ。それと、俺の名は日番谷冬獅郎だ。優等生でもなんでもない」
勝手に話を進められ苛ついてきた冬獅郎はテキストを閉じ、振り返る。そこには先程の女の子とは正反対のような性格だろう彼女の友人が増えていた。二人は顔を見合わせ、頭を下げると、順番に名乗ってくれた。
「私は35番の真間郁夏と言います」
「んで、私は郁夏と同じ中学の鳳紅です♪ちなみに中国人と日本人のハーフでっす!」
暫くすると藍染先生が入って来た。今日の予定を黒板に書き出している。
昨日配られたプリントの中に予定表が入っていたからだいたいの流れはわかっていた。だいたい同じような事を書いている。
全体集会のあと学年集会、先生の紹介や校歌の練習をする予定らしい。暫くはそんな日々が続くだろう事はその予定表でわかっていた事である。
一日も終わりに近づき、ついに部活見学の出来る放課後。俺は吉良と桃と共に剣道部の見学に行く事になっていた。ルキアはクラスの友達とサッカー部を見学するそうだ。マネージャーになる予定らしい。
D組に着くと、今ホームルームが終わったらしく、みんな鞄を持って何処へ見学行くかの相談をしていた。そして桃の所にも何人か集まってきた。それをじぃっと見ていると、桃は何か感じたのか振り返り、その友達を引き連れてやって来た。
「シロちゃん、友達も一緒でいい?」
「あぁ、別に。いいよな?吉良」
「構わないよ」
「ありがとうございます。えっと、梅田飛天です」
「アタシは猿柿ひよ里や。よろしゅうな」
そういうわけで、今剣道部の練習場へやってきた。外には大きな板に「剣道部」と筆でかかれた看板があり、とても雰囲気が出ていた。
冬獅郎たちが練習場の前で立ち往生をしていると、部員たちが後ろからやってきた。彼らは道を開け、先輩たちのことを目で追っていた。すると一人がその視線に気づいて近づいて来た。
「入部希望者かい?」
「あ・・・ちょっと見学を・・・・・・」
「じゃあ遠慮しないで上がれよ。もうすぐ練習始まるぜ」
頬にいれずみをしたその先輩はとても腕が頑丈で、冬獅郎とは正反対だった。冬獅郎は腕がとても細く、今にも折れそうなほど。とても小柄で、体重も平均より低めであった。
中に入ると今まで出会った事のある先輩が何人かいた。
まず、新入生歓迎会の時に出てきていた部長らしいスキンヘッドの人、それからマネージャーの女性、それから教室を案内してくれた黒埼先輩までいた。
「黒崎先輩!」
「あれ、お前ら・・・剣道部入るのか」
「先輩こそ、剣道部だったんですか」
「なんや知り合いいたんか、一護」
「真子やないか!」
「いきなり呼び捨てすな、ひよ里」
「そっちもじゃん・・・・・・」
仲の良い部活である事はわかった。そして元気である事もその後わかった。そして、あまり大会とかの実績がない事も知っていた。
しかし冬獅郎は運動部に入ってみたかったのだった。きっと今より運動能力が向上するだろうと思っていたから。だから大会とかに出て成績を残そうとは思っていないのでちょうどいいとも思った。楽しく過ごせる方を選びたかったのだ。
過去が悲惨なものなら、未来を明るくしたいと思うのは当たり前の事。だから部活内が明るいとわかったので、冬獅郎の決意はもう出来ていた。
「どうだ、入部希望者、もういるか?」
迷いなく冬獅郎は手を上げた。そしてひよ里も桃も、イヅルも。
「梅田さん、どうする?」
「私は他も見てから決めます」
「ま、人生焦っていい事ないしな」
「あ、私マネージャー希望なんです」
「あら、可愛い子が増えて、男たち喜ぶわよ〜〜」
「んもー、先輩、冷やかさないで下さいよ〜」
既に馴染めてしまっている彼ら。これからこの部活でどんな事が待ち受けているのか、この光景を見ながら楽しみに待つ冬獅郎であった。
「じゃあ一週間後の今日、新部員たち全員と自己紹介とかしてぇから、来れたら来いよ。他に入部するやつらがいるかは今はわからねぇけど、一週間後なら誰かいるかもしれないしな」
帰り際、キャプテンの先輩が言った台詞が冬獅郎の頭の中を駆け巡る。何を話そうか、何を言おうか・・・。重い過去を持った冬獅郎は、どう自分を表現しようか迷ってそれからというもの、一週間後まで彼の頭を悩ましていた。
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