第二章
第三節
部活見学をした翌日の朝の事である。家で冬獅郎は朝食をとりながら恐る恐る母親に尋ねていた。
「なぁ母さん。俺、剣道部入る事にしたよ」
「剣道部?大丈夫?」
母さん、と呼ばれた女性は、心配そうに、そしてとても不安そうに聞き返す。冬獅郎はもう子供じゃないんだから、と言わんばかりに返事を返す。
「ああ。いい先輩たちだから安心していいぜ」
「・・・・・・そう。冬獅郎が決めた事ならいいです、けれど無理はしないでね」
「・・・・・・ねぇ。今度自己紹介とかするらしいんだけど、俺の過去の事・・・母さんの事とかも話していいか?」
何か訳ありな、そしてただならぬ雰囲気が日番谷家のリビングに染み渡る。
「それは・・・信頼できるとわかってからにしなさい。何があるかわからないんですよ」
「わかってる、わかってるけど、今まで嘘ついてきたじゃないか!!いい加減、そんなの嫌なんだよ・・・。それにこれからずっと過ごす人たちなんだ、隠しっぱなしでいいのかよ!?」
「・・・・・・・・・そんなに言うならしょうがないけど、どうなっても知らないわよ?もしかしたら学校・・・行けなくなるでしょ?ほどほどにしなさい」
「はい・・・」
その日は一日中、ずっと自己紹介で何を言うか迷っていた。学年集会があり、それだけなら午前中には全て終わりなのだが、午後は役員決めがあるらしい。しかし今の冬獅郎は何の係りになろうかというよりも、自己紹介で何を言うべきなのか、という事のみがずっと思考回路を支配していた。
そんな思考をめぐらせている間に、どうやらもう集会が始まる時間になっていたらしい。
何を話すのだろう、何を聞かされるのだろう、この間にも午後は近づき、そして一週間後も迫ってくる。だから輪太が話しかけてくれたので、冬獅郎の心中を不安が支配し、思考回路がそれ以外閉ざされてしまう所を免れた。
「悪い、輪太。ちょっと考え事してた」
「そうみたいだな」
移動しながら、集会は何を聞かされるのかとかを話し合っていた。そんな事話したって当たる事はほとんどないというのに・・・。だが不安を消し去ろうと思った冬獅郎は、必死に話題を探しながら輪太と共に歩く。
集会場であるアリーナについた二人は、アリーナの床の上に並んで座った。
アリーナとは、小さい体育館のような所。一学年が辛うじて入る程度の広さで、主に卓球部とバレー部、バトミントン部が使用している建物だ。本館、体育館などとは別の場所に位置し、少し離れた所にある練習場だ。
そこは体育の授業でも卓球が普段ないのでなかなか一般人は入らないのだが、集会などではこの学校では良く使うらしい。
今日の集会は校歌の練習。あと学校で生活する上での注意事項などだった。
思ったより長くならず、二時間程度で終わった。教室に戻ってから時間が有るので各自自由となった。ただし、迷惑がかからないよう、教室内だけにしろ、と教務主任の先生は告げた。先生たちもミーティングがあるのだろう。
「冬獅郎は係りもう決めた?」
「まだ・・・・・・」
「じゃあ二人で同じのやろうぜ」
「え、男同士でもいいのか?」
「いいんじゃね?もう義務教育終わってるしさ」
二人は教室に戻ってからずっと朝配られた係りの内容が書かれたプリントを読みながら何をしようか話し合っていた。
全員が何かしらの役員になるように組まれたそれは、二人でやるものが多い。だから二人はお互いやりたいものを出し合っていた。
その結果、図書・出版・美化・文化委員にしようという事になった。他にもあるのだが、あまりやりたくなかった。号令は、そんな声大きくないし、書記は字が綺麗な方じゃないのでクラスのみんなが可哀そうだ、と思ったから。だから妥当なものを四つ選んだ。これならどれかになれるかもしれないだろうと思って。
「はい、席ついて〜」
暫く、と言っても三十分ほど経っていたが、藍染先生が帰って来た。既に時間割的に三時間目が終わる前あたりである。なので先生は先輩たちの、そして明日からの自分たちの時間割のタイムテーブルで、四時間目はホームルームに切り替わった。
「とりあえず役員を決めたいと思うんだ。だから午後はその続きと、自己紹介をやるけど、いいかな」
みんなコクリ、と首を縦に振る。冬獅郎はいつの間にか“自己紹介”という単語に敏感になってしまっていた。今まで、ちょっと忘れていたから余計。でもたいした事を話さなくてもいいだろう、と思っていた。だからちょっとみんなとはワンテンポずれたが、了承の合図をとった。
「じゃあまた休憩になっちゃうね」
それと同時に、三時間目終了を知らせる鐘が校内に鳴り響いた。
四時間目は話し合い。みんな譲り合いで、早めに終わってしまった。もめる事もなく、かと言って誰もヤル気がないわけじゃない。みんな親切な人であった。
そして冬獅郎と輪太は難なく出版委員になれたので、ガッツポーズを教室でやっていた。
「やったな」
その後他のクラスメイトが誰で、何の係りについたのか、見渡していた。
「じゃあ書記の人、早速だけどこれにクラスメイトの役員書いてもらおうかな」
「「はぁ〜い」」
返事をした二人は、昨日冬獅郎とメアド交換をしたかおりとエミリだった。
二人は先生に渡されたプリントに、黒板に書かれた人物を名簿で必死に探していた。ほとんどが知らない人ばかりだからきっと大変だろう。そして難しい漢字のある名前もちらほらいる。自分の名字も普通は読めないのだろうな、そう思った。
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