第三章

第一節



「皆遠慮したりとかで早く係りが決まっちゃったから、自己紹介始めるね。とりあえず・・・」
そう言って先生は黒板に何かを書き始める。クラスメイトは全員先生の這わせるチョークを目で追っていた。皆それなりに緊張はあったみたいだ。確かに昼休み、持ってきた弁当を食べながら午後の自己紹介の話をしていたからそれはつかめる。
冬獅郎にとっては数日前からの悩みの種だから今更、というのもあるが、逆に示された事だけ言えばいいこの自己紹介は悩みの種にはならなかった。

「じゃあ名前と趣味と、あとは入ろうと思ってる部活の事くらい言えばいいのかな。他になんかあるかなぁ」

皆意見もなく、そのまま一番からの自己紹介が始まってしまった。
一番は青樹潤という、地元の出身の男子。中学では男子テニス部所属で、高校になっても続ける、と強い意志を示した。
二番は浅田かおり。彼女は冬獅郎とメアド交換をした女子。潤と同じく地元出身の彼女は引き続き吹奏楽に入りたい、と断言していた。
三番は冬獅郎と同じ市の出身の女子、四番は冬獅郎と小学校で一緒だった植田錬で、先日それに気づいて挨拶しに行った。三、四年の時同じクラスで時折遊んだ事があったくらいだったが、相手も覚えてくれていたのですごく嬉しかった。彼は中学で吹奏楽をやり、続けたいと言って席に着いた。また、五番は輪太と同じ中学出身の上原裕也という男であった。彼は身体がガッシリとし、頼りがいのあるイメージが冬獅郎の中で構築された。
その後イヅルまでは七番の大谷冬海と八番の鳳紅、十七番の木村歌音の三人以外全く知らない人で、ちゃんとクラスの全員の顔と名前が一致するのは暫くの間は難しいだろうとか思いながら聞いていた。みんな何処となく緊張している雰囲気が隠しきれていず、顔中に“やばいよ〜〜”とか“緊張するよ・・・”とか書いてあるのが丸見えだった。
「大谷冬海と言います。趣味はオーボエを吹く事です。小学校の頃からやっている吹奏楽を続けたいと思ってます」
「私は鳳紅。中国人の父と日本人の母を持ったハーフです。中学では卓球部だったけど高校では心機一転、吹奏楽入ろうかなとか思ってます。よろしく!!」
冬海はこういう場が好きじゃないと昼休み言っていて、大丈夫だよ、と茜雫たちに励まされていた。でもやっぱり緊張はあらわになっていたが本人なりに頑張れたようで、話し終わった後ホッと安堵の息をもらしていた。
また紅は元々の明るい性格とこういう場面が大好きであるおかげで軽く終わった。皆の拍手も今までで一番大きかった気もした。
歌音は大きな緊張感を表さず、適度に緊張した状態のまま言い終え、拍手もそれなりであった。普通の女子、そんな印象であった。

「僕の名前は吉良イヅル。部活は剣道を引き続きやるつもりです。あと趣味は読書です。今年一年間よろしく」
イヅルは示された事をなんのひねりもなく言い遂げる。普通すぎて面白くないのも事実だが、しっかり者で真面目な性格はそれだけで示せていて、イヅルらしいな、と冬獅郎は心の中で思った。

「こんにちは!佐藤茜雫です!大好きなバスケを高校でもやりたいと思っています!この辺出身なんで、商店街とかで会うかもしれません(笑)これから一年、よろしく!!」
茜雫は持ち味の明るさをアピールしながら話し終えた。短いが内容はしっかりまとまっていて、文才能力があるのが手に取るようにわかった。

自分の二つ前の林川エミリが終わり、自分の前の席の女子、柊木翡翠は背が小さくて声も高く、可愛い女の子、そんな印象を冬獅郎だけでなくクラス全員に与えた。

「俺は日番谷冬獅郎。部活は剣道部に入る予定だ。趣味は・・・読書とかだな」
冬獅郎も輪太も終わり、あと十人となった。時間もぴったりくらいで、この時間中にちょうど終わりそうであった。皆緊張感がなくなってきて、周りに影響されて言葉に詰まる人も少なくなってきた。






自己紹介も終わり、ホームルームが始まった。明日からは普通に授業があるみたいだ。だからこのクラスの時間割が配られた。月曜日から金曜日までだから一週間で五日間学校があり、毎日六時間である。帰れるのは三時くらい。学校まで一時間程度であるから、家には四時に着く。しかし部活があるから夜遅くになってしまうであろう。
冬獅郎の場合、家計の問題でアルバイトを取ろうと思っている。この学校は長期休業中しか許可しないが、家計が辛い家などには許可をしてくれるらしい。だから毎日頑張って仕事をしてくれる母親のためにも、自分も何か役に立ちたい、と思い、学校に入る前から相談していた。そして春休み中に学校に赴き、許可を貰ったのだ。
何処のアルバイトをするのかはその時に既に決まっていて、もう始めていた。冬獅郎の地元にちょっとしたカフェがあり、その隣りのパン屋でのアルバイトである。余ったパンは貰って、翌日の朝食や昼食に回せて、食事も助かっている。また、アルバイトは月曜日と木曜日。はたまたこれから入る予定である剣道部の練習は主に火曜日・水曜日・休日で、ちょうど曜日が被らなくて助かった。

「日番谷君!!」
いつの間にかホームルームも終わり、放課後となっていた。一緒に帰ろうとやってきた桃とルキアが教室の外で待っていた。
「ほら、冬獅郎。彼女が待ってるぞ」
後ろの席の輪太が冬獅郎の背中を軽く叩いて思考回路にストップをかけた。
「ありがとう・・・」
「また考え事か?」
「そんなもんかな」
「悩みでもあんの?」
「気にするほどのものじゃない。じゃ、また明日な」
「おう!じゃな!」
そしてイヅルと共に教室の外に出て桃の平手を喰らった冬獅郎であった。










翌日からの授業で、三回ほど授業を受けた教科はそれなりに慣れてきた。何となく聞いていれば予習のしかたもわかってきたし、授業の聞き方も何となくわかる。だが、休み時間になると決まって眠ってしまう癖は直らない。どうしても夜は授業の予習をこなしたい冬獅郎なので、どうしても寝る時間が遅くなる。昨日もアルバイトがあって、夜九時に店長と正式な店員と共に店を閉めたから、疲れたまま家に帰り、夕食を食べて入浴、そして翌日の準備でもう十一時を過ぎた。そのあと英語の予習をしたから既に寝る時には十二時をとっくに回ってしまっていた。

「冬獅郎って本当しっかり者なんだな」
「なんでだ」
「だってしっかり今日の分予習してあるし」
「授業を理解するにはやっぱ事前の予習が必要だろ?」
「流石優等生だな。俺には無理だ。あ、そうだ。今日の放課後空いてるか?」
「今日?・・・・・・いや・・・部活の集まりがあるんだ」

そう、ずっと冬獅郎が悩んでいた自己紹介の日が、実は今日。今朝母親にはやはり家の事情を話すのはやめる、と言ったばかりであった。その理由は、やはりまだ親しくもないのにそんな事を話しても引かれるだけだし、良い感じがしなかったからである。いずれ時が満ちれば話そうと本人も思っている。時とは、先輩たちと親しくなれる夏休みあたりだろうと冬獅郎は踏んでいた。

それもあるが今冬獅郎の頭に出来た疑問は、輪太の質問である。何故、突然今日の予定を聞いたのだろう?予定なら昨日の夜メールでも良い気がした。
その疑問を尋ねると、ちょっと照れ臭そうに冬獅郎に顔を近づけ、みんなに聞こえないくらいの音量で話してくれた。
「ほら、前に俺の絵を見せてやるって言ったじゃん。昨日探しててさ、市内の展覧会に出した絵が出てきたんだ。水彩なんだけど、先生にも市の職員さんたちにも好評だったやつなんだ。絶対冬獅郎に見てもらいたいって思って」
「あぁ、そうか・・・。じゃあ日曜は?」
「大丈夫だけど、家わかる・・・わけねぇよな」
「家近いのか?」
「あぁ、自転車通学だから。自転車で十五分くらいかな。だから最寄駅の・・・・・・」
「じゃあそこに日曜の朝十時でいいか?」
輪太との約束を携帯電話のカレンダーに書き込み、チャイムが鳴った。




次へ→


学園パロディートップへ


トランサミンカプセル