第三章
第三節
「じゃあ次は新入生にバトンタッチしよっか」
乱菊は笑顔で端にいるイヅルに視線を移した。初っ端ですか、と頭を沈めながら口を開いた。
「ボクは、吉良イヅルと言います。クラスは一年C組になりました。これからよろしくお願いします」
「俺は吉良と同じクラスの、日番谷冬獅郎です。初心者ですが、よろしくお願いします」
余計な事を言わなくて済み、ホッとしながら冬獅郎は呼吸をし直した。一週間不安を支配していた物がやり遂げられ、心底安心していた。
「D組の猿柿ひよ里や。大阪から引っ越してきたばかりだけど必死にこっちに慣れようと思って部活に入る事にしたんや。よろしくな」
「私はマネージャー志望の、雛森桃です。よろしくお願いします」
桃も落ち着いた口調で、だけれど何処となく緊張を残した喋り方で言い終えた。冬獅郎も桃が終わってホッとしている。幼馴染みだからやっぱり無意識のうちに心配なのである。
「じゃあこれから部室に案内すっか。じゃあえっと、これから部室配分するからこっち来い!」
そう一角は勝手に決めて勝手に歩いていってしまった。それを横目で見て溜息をついた修兵は、ゆっくり立ち上がって一年生に指示を出す。
「じゃあ部室決めるから俺たちについて来てくれ」
場所は変わり、マネージャー室前。一角は新入部員に入部届けを一枚ずつ配った。
そしてマネージャー志望である桃を除いた者たちに尋ねた。
「女子は勿論全体的にもすくねぇから林檎とリサと同室な。とりあえず男子用の部室が俺の部長室、ここは俺以外入れない。だから、ギンと槍介の部室、修兵と一護と真子の部室の二つ。先輩の方で決めちゃっていいか?」
誰も嫌がる者はいず、その後マネージャー室を使って、先輩だけで話し合っていた。一体どちらに配属されるのか、その場に残されたイヅルと冬獅郎はドキドキしながら待っていた。たった二人なのでどちらがどちらを取るか決めているのはわかる。どちらに入れられるのだろう、と冬獅郎はドキドキしながらこの時間を過ごしていた。
その間、乱菊は毎年こうやって部室を決められる事を教えてくれた。来年もこうして決めるのだろう。
「よし、決まったから、名前呼ばれたやつはこっちへ来い!まず、吉良イヅル。お前は市丸ん所だ。なにやらお前らは先輩後輩の仲みたいだからな」
「あ、はい。お久しぶりです、市丸先輩。またよろしくお願いします」
「ほんま。こないな所までおっかけて来るとは思わなかったわ。またたのんますわ」
「次、冬獅郎。お前は修兵んとこだ。一護がお前に興味あんだってよ」
「黒崎先輩、今後よろしくお願いします」
「そんな頭下げんなって」
「よろしくな、冬獅郎」
「あ、はい。えっと・・・・・・」
「檜佐木修兵だよ」
「すみません・・・これからよろしくお願いします、檜佐木先輩」
これで部室は決まった。一角はそれぞれ部室に行って、先輩から必要なものとかを教えてもらう、ということになった。本来なら先輩たちは部活が休みの日なのだが、新入部員のために、という意気込みが見られた。冬獅郎たちは自分の荷物を持って、先輩のあとに従って部室に足を踏み入れた。
「雛森、いっぱいやる事あるから、きちんと覚えるのよ。あんた、なんか物覚え良さそうだから助かりそう」
「そんな事ないですよ。ドジばっかでしょうけれど、よろしくお願いします」
桃は、マネージャー室で乱菊と対話をしながら部室を眺めていた。綺麗に整っているように見えて、棚の中などはごちゃごちゃであった。几帳面な桃はかなり気になってしまい、今度の部活の時に乱菊より先に来て片付けようと決めた。
所変わって冬獅郎はというと、質問攻めに遭っていた。
何処に住んでいるか、中学時代何部に入っていたか、など、普通の質問だが、いい加減飽きてきた。
「せ、先輩・・・いつまで質問すんですか?」
「そうだぞ黒崎。いくらなんでも多過ぎだって」
「そ、そうか・・・・・・」
「困ってるやないか、一護。彼の事、考えてやれや」
「そうそう。質問ならいつでも出来る。今は冬獅郎君に教えなきゃいけない事があるだろ?」
「と、冬獅郎で、いいです・・・・・・」
下の名前に君をつけられ、冬獅郎はちょっと寒気がした。今まででそう呼ばれたのは初めての事であったからだ。
しっかり者の修兵は、その後一角に指示された通り、部活をやるに際して必要なものを挙げ始めた。そして、剣道をやった事がない冬獅郎のため、今度の土日のどちらか、共に買い物に出よう、と修兵は提案した。
「日曜は予定入ってるんで、土曜日でいいですか?」
「そんな敬語必要ないって。この部活は先輩後輩の仲が良いって評判なんだ。で、土曜か。一護と真子はあいてっか?」
「俺、土曜はいつも家の医者の手伝いあっからなぁ・・・無理だ」
「俺は母親に店番たのまれてんねや。悪いな」
「じゃあ俺が付き添うよ。俺は毎週暇だからな」
「すいません、修兵先輩。またよろしくお願いします」
構わないよ、と修兵は冬獅郎の頭を一回、軽く叩いた。
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