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一番大切なお前と…

  第六章


冬獅郎が十番隊長になってから約2週間が経過したある日の事。冬獅郎は山本総隊長から呼び出しがかかり、松本と共に一番隊へと向かっていた。
初めての総隊長とのご対面。多かれ少なかれ冬獅郎は総隊長がどんな人なのかと緊張していた。
「隊長は初めてですよね、お会いするの」
「あ、あぁ…」
「そんな緊張する事じゃあありませんよ。だからって気を緩めすぎると怒られるでしょうけどね」

そうこう話しているうち、もうそこは一番隊。自分の隊とは一味も二味も違うような気がするその隊舎に足を踏み入れた。

「こんにちは、総隊長」
松本が頭を下げるのを横目で見、自分も頭を深々と下げた。
「十番隊日番谷冬獅郎です」
頭を下げながら冬獅郎は自らを名乗る。
「よいよい、頭をあげなさい」
総隊長はニコヤカに冬獅郎を見下ろしていた。それが何だか気にくわない冬獅郎だが、ここで歯向かっては自分の命が危ないだろうと察し、心の内に収めた。

「今日君たちを呼んだ理由なのだが、まぁ新しく隊長になったという天才児日番谷冬獅郎を見てみたくてのぉ」
「そ、それだけ…なのですか?」
「勿論、それだけじゃあない。君たちには現世へ向かってもらう」
「現世!?」
冬獅郎にとって初めての現世任務。それまで何度か任務に向かったが、どれも始解せずして倒せるような尸魂界内の虚退治。今回は総隊長に命じられる所から、とても大きな大事な任務である事が窺えた。
「ワシが呼んだからわかると思うが、ただ事じゃあない」
「やはり…」
「現世では最近、大型の虚が多発しておる。今現世に派遣している十三番隊朽木ルキアより、手助けを求められての」
「朽木!?あの朽木家の…!!?」
「そうじゃ。それで、日番谷隊長の能力を知りたくなっての。何やら凄いそうじゃあないか。まぁそれでなんじゃが……君ら二人で隊員を何名か命じて同行してはくれんか?朽木殿も待っておるじゃろう」
「わかった。すぐ手配して現世に向かいます」
「くれぐれも無茶はせんように。危なくなったら援護を要求する事」
冬獅郎と松本は総隊長の元を離れて隊舎へと戻った。
一体誰を共に向かわせようか。今までに戦闘経験のない連中も連れて行くか?それとも結構な腕前の奴か?

「隊長、一人で悩むのはやめて下さい。困った時はお互い様。ちゃんと相談してくださいよ?こう見えて結構やる方なんですよ、私」
本当か、そう訴えるかのような睨みを効かせながら松本に相談を持ちかける。
松本は隊舎に戻るまで考え込んでいた。その間の表情は普段と違って真面目で、いつもと違う松本を見れた気がしてまだまだ自分は彼女には劣っていると思ってしまう。もし彼女が卍解を習得したとしたら絶対抜かされるのだろう、そうとさえ思わせてしまう。

「そうですね、現世に行った事がないような人は今回はやめた方が言いかと思います。どんな敵かもわからないし。それなりに戦闘経験があり、腕前がまだでも経験者がいいかと思います。誰を向かわせましょうか?」
隊舎前辺りに着き、松本の考えがまとまったようだ。
戦闘経験がそこそこあって、腕前が確かじゃなくてもいい奴…。席のある奴を数名と、平隊員の中から何名か、という所か。
「俺と松本は確実だったよな」
「えぇ」
「あとは………」
「郁夏は?」
「えっ?」
まさか、郁夏の名が出るとは思ってもいなかった。冬獅郎はなるべくなら彼女を連れて行きたくはなかった。多かれ少なかれ、危ない目に遭わせかねない。
まだまだ自分は未熟だし、自分の身を護る事だけでも精一杯になるかもしれない。
「郁夏だって強い事知ってるでしょ?夫婦なんだからさ」
「そりゃそうだけど……」
「大丈夫。死にゃしないって」
それはわかってはいるが、なかなか判断に欠けてしまい、イエスノーを言えなくなっていた。

「あ、冬獅郎さん、松本副隊長、おかえりなさいませ」
「郁夏!早速で悪いんだけど、現世への任務命ぜられたの。それで一緒に行かない?」
「なんか遭ったんですね、現世で。そのくらいお安い御用ですよ!」
「ほら、言ったじゃないですか。全然迷う必要ないって」
「郁夏……危険が伴うが…それでも大丈夫か?」
心配されている事が何だかむずがゆくて微笑を浮かべながら、はい、と頷いた郁夏を見、自分がしっかりしないと、と改めて胸に誓い、他のメンバーを決める事にした。

「席官はあと数名。平隊員はまぁ埋め合わせ程度って事なんだけど、誰か良い人いない?」
「そうですねぇ…。行きたい人を連れて行けば良いのではないでしょう?」
そんな選び方でいいのか、と郁夏に問う冬獅郎だったが、当の郁夏はそんなもんです、と言いたげに腰に手を置いた。
「じゃあ郁夏、何人かここに呼んで。行きたいって人よ?」
「わかりました。少しお待ち下さい」
頭を下げ、執務室を出た郁夏は、隊員に声をかけまわっているようだ。
ただ、ちょうど十番隊は書類が三番隊から回されてきたばかりで、忙しくて席を外せる隊員は少ないだろう。興味本意で来られても困る。まぁ冬獅郎は総隊長からの命だし、仕方がない。隊長印の必要なものだけ執務室に置いてくれればいいのだ。

「冬獅郎さん、連れてきたよ!」
郁夏の方が十番隊に馴染んでいる。その分隊員に声を掛けやすいし、それに郁夏からの命なら、と頭を下げて執務室に入ってくる隊員たち。冬獅郎はその殆どの隊員の顔も名前もわからないでいた。
「こんにちは、日番谷隊長、松本副隊長」
「えーと、俺はまだこの隊の事わかんねぇし、お前らの名前なんかもってのほか…。自己紹介からいいか?名前と斬魄刀の簡単な能力について。いいか?」
名前だけではなく斬魄刀の能力を言わせたのは、今回の任務をなるべく楽に済ませる為である。
「それじゃあ僕から。僕は大空大河。第6席です。斬魄刀の能力は水で、空気中の水分の濃度を上げる事も可能。なので、隊長との連携もまぁ可能かと。隊長は大気中の水を使って氷を操れるんでしたよね?」
「なるほど…。今回は空気中の水濃度を頼む。支持はするが…その通りは無理だったら言ってくれ」
わかりました、と大河は冬獅郎に自らの斬魄刀を掲げた。これに誓いますよ、と言いたげに。
さて、次は、と冬獅郎は目を泳がせていた。
「次は私です。私は夏風浮凛。まだ平ですが。えと、斬魄刀の能力は風です。斬魄刀を振る事によって、言わば風起こしが出来ます。他にも、カマイタチも出来ます」
珍しい能力に目を丸くする冬獅郎。今までに風使いの死神にあった事がなかったからだ。
「そうだな…お前は、それぞれの仲間の援助だ。囲まれていたら何処かへ吹き飛ばす。そして自らもその…カマイタチで戦えるな」
コクリ、と頷いて自分の命を心のうちにしまい込んだ。
一体どんな事をしてくれるのかと微妙に期待をしながら冬獅郎は次の紹介を待った。
「それでは次は私ですわね。私は常盤雅。斬魄刀の能力は自然ですわ。周りの木や草、花などを自在に操れるんですの」
「すげぇな…」
「はい。草なら相手の足を止めたり、また攻撃を仕掛けたりも出来ますわ。あと、応急治療も可能です。そして木に生える枝を使えば直接攻撃も可能。花を使えば華麗に相手への攻撃が出来ます」
「そんなに凄いなら、お前は一人で戦えるな」
「そこまで強い敵でなければ大丈夫です」
これで自己紹介は全員言い終えた。
それぞれの役割も決まった事だし、出発するか、と冬獅郎は皆を促した。
皆は冬獅郎と初めて話せ、そして共に戦場へ借り出される喜びを噛み締めながら冬獅郎と松本、そして郁夏の後に続いた。



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