St.Valentine’s Day


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「日番谷隊長!私から貰ってください・・・!」
「義理な気持ちでもいいですから!」
「ずっと好きでしたっ」

ここは十番隊隊舎の正門とも言える場所。一生懸命十番隊の隊員たちが門を抑えているがそろそろ限界だ。早くなんとかしたいが、ここを離れればすぐに門が開いてしまう恐怖で、なかなか隊長本人を呼びにも行けない。この状況を知って来る事を祈るばかりである。
しばらくして、隊舎の玄関が開く音がし、隊員の何人かは後ろを振り返った。

「悪いな、足止めしててもらって。あとで世話チョコってやつやるから安心しろ。最後に手元にあるチョコが多い奴の勝ちなんだろ?」

隊員の何人かにボソボソと呟いた。もちろん、門の外は更に盛り上がっていて彼女たちに冬獅郎の囁きなど聞こえたはずもない。
そして彼の言葉の意味する事は、その場の隊員たちみんな喜ばす事。彼の企みによって隊員の願いが叶うわけではないが、この状況を乗り切るには充分すぎる事であった。

「おい、てめぇら!そんなに俺にチョコあげたいならそこ置いてけ!」
「駄目です!また処分する気でしょ!!」
「わかってるんですからね!!」

相手が甘い物嫌いな事を知らないらしい。好きな人を困らせて何が楽しいんだ、と眉間の皺を更に増やして、斬魄刀を抜こうとする。
それをいち早く止めた隊員は、十番隊の第四席。彼ももてる方で、去年も十番隊の中でバレンタインイベントで二位を獲得した。女性にも優しい所が人気の証拠らしい。隊内の女性のほとんどが冬獅郎と第四席にチョコをあげたらしい。

「大丈夫だ、門の向こう側へ行くだけだ」

第四席の静止を振り切り、氷輪丸にまたがり門の向こう側へと向かった。

「隊長!」
「貰ってやるから、門壊すなよ」
「あ、あ、ありがとうございます!!」

みんな冬獅郎にチョコレートを手渡して嬉しそうに退散していった。
最後の死神がチョコレートを置き、チョコレートの大きな山が一つ。しかし、そこに冬獅郎の姿がなかった。いや、いるのだが、山の下敷きなってしまい見えなくなってしまったのである。それだけ多くのチョコレートが十番隊前に置かれていったのだ。

「大丈夫ですか!?」

静かになった外の様子を見るために隊員たちが門を開けて出てきたが、隊長の姿がなくて慌て始めた。もちろん居場所はあそこ・・・・・・。

「俺はここだ・・・!」

チョコレートの山から冬獅郎は姿を現す。隊員たちは安心して、冬獅郎にしがみついた。
彼らはあの嵐を鎮める方法が全くなくてずっと悩んでいたのだから・・・。

「おら、このチョコの山、持って行きたいだけ持って行け」
「あ、ありがとうございます!!」

その場にいた隊員たちで山分け、という事になり、みんな喜んで取っていた。本当は盗むのと同じ事なのだが、今日だけは特別だし、本人が許したのだから盗んでいるわけでもない。
冬獅郎に送った女たちには悪いが、どっち道冬獅郎には甘すぎるチョコレートなど食べる事が出来ない。いずれ誰かに食べてもらうのだから、いつ渡しても同じ事である。どうせなら、食べない自分が優勝するのなら、心からチョコレートが欲しくて、優勝をこの手にしたいと思っている隊員たちに分けてあげたい、というのが冬獅郎の心からの願いだった。
それに、知らない女から貰ったって嬉しくない。さっき来たあの中に、知っている死神などいなかった。尊敬しているくらいならいいが、ああいう形で表されたら好意も何も生まれるわけないのに、と冬獅郎は執務室に帰りながら思っていた。


「隊長、おつかれ様です」
「おまっ何処行ってたんだ!」
「何処って、今日はバレンタインでしょ?チョコレート渡しに行ってたんですよ。隊長もいりますか?」
「いらん」
「そんな事おっしゃらずに〜。ちゃんと甘さ控えめにしてありますから」

そう言って綺麗にラッピングされたチョコレートを目の前に差し出した副隊長の松本乱菊。彼女は渡す際、先程の騒動は一部始終見させてもらった事も話した。

「隊員たちにチョコレート分けたんでしょ?私のくらい貰ったって優勝は隊長のものにはなりませんから、安心してください」

そう言われて、しかも本命なわけじゃなくていつもありがとうな意味のチョコレートだ、と言われれば貰ってもいいか、と思ってしまう。
少し頭を下げて礼をいい、チョコレートを受け取って自分の席に着いた。

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