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LISET
第五章
夢では、故郷の家から歩いて20分くらいの森の中で虚に襲われた。刀を握りながら森の中を歩く。辺りは静かで、虚の気配はしない。じゃああの小父さんは、誰だったのだろうか。
「気のせいか・・・」
尸魂界に戻ろうとした時、背後に虚の気配を感じた。昔以上に虚は気配を消すのが上手になってきているようだ。
「くっ・・・霜天に坐せ、氷輪丸!!」
力も強く、斬魄刀の解放なしでは勝てそうになかった。氷輪丸のおかげで、すぐに虚は倒せた。思っていたほど苦戦もせず、今度こそ尸魂界に戻って雛森とここに来よう、と考えていた時である。日番谷は懐かしい気配に気づいた。しかし・・・・・・
「なっ」
軌道が得意な雛森。霊圧をうっすら消し、近づいていた。そして、一瞬で日番谷を斬りつける。
「隊長、ここまでです」
「雛、も、り・・・・・・どう、して・・・・・・・・・」
「ここで死んでください」
どうしてここにいるのかも、どうして斬りかかって来たのかもわからない。しかし雛森の目は本気である。
相手が雛森である以上、思うように闘えない。ましてや、先程の一撃で相当出血している。視界もぼやけ、意識も遠のいている。
「くそっ」
日番谷は目を瞑った。そうすると雛森の懐かしい感じが、そして温もりが甦る。
「死ぬ覚悟は出来たのかしら」
雛森は刀を構え、日番谷に向かって振り下ろした。と、その瞬間、目を閉じていたはずの日番谷は目の前から消えた。
「え?どこへ消えた・・・?」
雛森は必死に消えた日番谷を探す。しかし、どこにもいない。
すると、後ろから抱きつかれた。
「貴様っ」
「雛森・・・もう、俺、嫌なんだ・・・・・・思い出してくれ。俺はここにいるぜ」
「何をいきなり気色悪いことをぬかしてやがる!」
「悪い、今まで黙ってて。だけど、俺、餓鬼の頃からお前の事が好きだった」
「・・・」
「雛森の中から俺の記憶がなくなったってわかっても、この気持ちだけは変えられなかった。いや、だからこそ俺が守ってやらないとって思ったんだ」
「・・・・・・」
「今すぐに、とは言わねぇ、だから、俺のこと、いつか必ず思い出すって言ってくれ・・・頼む・・・・・・」
雛森はしばらく黙って日番谷の台詞を聞いていた。雛森も女である。記憶がなくても、男から告白をされれば「もしかしたら好きなのかも」と思ってしまう。その思考を使い、日番谷は記憶を戻そうと思ったのだ。一か八かの賭け。もし失敗すればこの状況、確実に日番谷の死を生み出す。
しばらく抱きしめたままだったが、ここで日番谷はゆっくり雛森から離れる。もし目を合わせ、雛森がいまだに本気の目をしていたら、日番谷は終わりである。しかし、雛森の目にもう闘う気はなかった。それから少ししてからである。雛森の口が小さく動いた。
「ひつ・・・がや、君?」
「雛森?」
「あれ、私どうしてこんな所に?・・・あっここ流魂街の!!」
「お前、もしかして記憶戻ったのか!!?」
「記憶?」
きょとんと日番谷を見つめる雛森。それを嬉しそうに見つめる日番谷。
「記憶なくしてたことの記憶ねぇのか?」
「え、そうなの?・・・それよりどうしたの!?その怪我!!!」
「へっ大丈夫だよこんな傷」
日番谷にとってこれとない幸せである。これほど幸せな時は今までに経験した事がないし、これから先もこれ以上の幸せはないと錯覚してしまうほど日番谷は幸せの頂点にいた。
「とにかく、無事でよかったっ」
「ちょ、ちょっとぉ、いきなりどうしたの!?」
珍しく素直に感情を表す日番谷に、雛森は少々動揺していた。はっと我に返った日番谷は、雛森から離れる。
「ま、まぁ・・・その、おかえり、雛森」
「? う、うん、ただいま・・・」